princess
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「ん…」
私は真夜中、目を覚ました。部屋の電気は全部は消していない。
夜目が覚めて何かしら動く時に見える様に小さな明かりだけつけるようにしてある。
「……2時か…」
時計を見ると針は2時ちょっと過ぎを指している。
もう一度寝ようと布団にもぐったが、なかなか寝つけなかったので外に出ることにした。
今日は、いや昨日は天気が良かったので星も綺麗に見えるだろう。
「綺麗…」
この空はいつまでも変わらないんだと思う。昔も、今も未来も、どの国でもどの世界でもこの空なんだろう。
空はみんなに平等だ。同じだけの光をくれ、同じだけの雨を与えてくれる。この空の下ではみんな同じ位置に立てればいいのに。
そんなことを昔、シンと話した。今はシンもこの空の何処からか私達を見守ってくれているんだね。
冷えてきたので中に入った。そろそろ2時半を回る頃だろうか。部屋に戻ろうと奥に進む。
部屋は電気をつけてあるので、その光に向かって歩けば、こんな広い城でも迷わない。
自慢ではないが私はまだ、この城の中を理解していない。普段行き来する所以外は全く分からない。
この城で育っているとはいえ、ここまで広かったら覚える気もしないし、覚えられない。
興味本位に探険でもすれば迷うのがオチだ。自分の家で迷ったなんて口が裂けても言えない。間抜けすぎる。
光の方に歩いていくと、同じようなドアがいっぱい並んであるところに来た。ここだ、とノブに手をかけようとして一瞬止まる。
「あれ…?」
確か私は出るときに光がよく見える様にと、ドアを開けていったはずだ。
今は誰も起きていないし、この城に幽霊が住みついているという噂を聞いた覚えもない。
「…ってここ…」
周りを見回す。目が暗闇に慣れていたので、うっすらとは見える。
良く見てみると、そこはいつも見慣れている自分の部屋の周りの景色とは微妙に違った。
だいたい同じような造りをしているので気づかなかったが、やはり良く見てみると少々違っているところがある。
「ココどこよ?」
周りに誰かいた訳ではないが(もちろん幽霊もいない)問う。
兄の部屋も妹の部屋も爺やの部屋も明かりはついているが、ここはその誰の部屋でもない。
私が知らないということはここは普段使われていない部屋なんだろう。
お手伝いさんか誰かが掃除のために電気をつけてそのまま消し忘れたのだろうか。
私は電気を消そうとドアノブに手をかける。やはり使われていなかったようで、ノブには埃が溜まっていた。
ドアを開けるとそこは物置のようだった。どおりで使われてないわけだ。自分の家なのにどこか知らない廃屋を探険するみたいだ。
でも、よく見てみると光っているのは電気ではないような気がする。
念の為スイッチに手をかけたが、きちんと「切」になっている。
「誰かいるの?カイル兄?メイル?爺や?」
今この城にいる自分以外の全ての名前を呼んだが返事は返ってこない。
光に近づいていく。私は幽霊とかは信じない方なので、最初からそういうものではないと思っている。
近づいていくにつれ、人っぽいものがいるのに気づく。
まず足が見えた。いっちょ前に組んでいる。いや、それどころか長い。
それから、腕も組んでいる。指は細く、長い。手タレにいそうだ。
長い髪が見える。それも座っていて、地面についてまだ余っている。
目はかなりつり目で、そこからは冷たいものしか伝わってこない。
瞳は青とも灰色とも言えない色をしているが、こんな瞳の色の人間は見たことがない。
でもすごく綺麗だった。
陶器を思わせる白い肌、透き通るような色素の薄すぎる髪、それに綺麗な大きな瞳が絶妙にマッチしていた。
人間離れしている。
どうでもいいけど、マッチっていつの言葉よ?
でもそんな容姿でもきちんと男だと判断できる。
「あなたは…?どうしてここにいるの?」
私でさえここがどこだか分かっていないが、少なくともうちのお城の中のどこかだろう。
一時、沈黙が流れる。男は何も喋らない。ただじっと、こちらを見ているだけだ。
私はただその男を見つめ返すしかなかった。あんな綺麗な瞳で見られたらつい見とれてしまう。
「……あの…?」
私がもう一度男の正体を聞こうとしたその時。
ザシュッ!!!!
一瞬何が起こったか全く分からなかった。
気がついたら右腕は小さな切り傷を負っていて、右足元にあったものは真っ二つに割れて、中身が見えている。
よく見るとそれはクマのぬいぐるみだった。くまさん内臓破裂。
「ちょっ…ちょっと何するの!!危ないでしょ!!」
私は無意識にその男を責めた。その男がやったという確証は何処にもないし、第一、今何をしたのかも分からない。
でもこの部屋には私とその男しかいないし、この城にいるものは別の場所にいて物を壊せるというハンドパワーを使う者もいない。
自然現象だとすれば、それこそ超魔術だ。つくづく自然は偉大だと思う。
「お前は…誰だ…?」
それはこっちが聞いている。聞けばそいつの声は少しハスキーがかってはいるが、透明でよく通るものだった。
「私はメルナ・イザラ!一応この国の王女よ。それよりあんたこそ誰なの?!」
少し喧嘩ごし。でも相手はさらっと流す。
「お前に名を教える筋合いはない。ココはどこだ、教えろ」
「何なのあんた!人に名前聞いといて!名前を聞いたら自分も名乗る!それが普通でしょ」
少なくとも私はそうだと思ったから名前を言ったのだ。なのにこいつ。
「ココはどこだ」
反論もしなければ名乗りもしない。ただここが何処だか私が喋るまで質問する気だ。
喧嘩売ってんならありがたく買うわよ、と言いかけたが、まだ深夜だ。ここで喧嘩などしたらみんな起きてしまう。
「ココは…私の家よ。お城の中」
「城…」
瞳を合わせると吸いこまれそうだった。
「俺は…」
「だから何なのあんた!迷子?!」
こんなでかい城だからこんな大きい兄ちゃんが迷子になってもおかしくない。と私は思っているが、5歳の妹でも迷わない。
迷う私って…
「俺は誰だ…?」
迷子どころか記憶喪失かよ。これこそココは誰、私はど…違った。ココは何処、私は誰、だ。初めて生でみた。
「そんなの私が知るわけないでしょ!てか私が聞いてるんですけど…ってあんた誰?」
私もそこまで間抜けではないので記憶をなくしている者に再び名前を聞いているわけではない。
男の後ろに綺麗な女の人を見つけたのだ。
「私は運命の女神ノルン。過去のウルド。この人は記憶をなくしているわ。どうかこの人の記憶を取り戻してあげて」
話し終わったかと思うと、次はこの声に似た別の女が出てくる。
「私は必然、現在のヴェルダンディ。この人は今、自分が誰なのかも分かっていない」
そんなことは分かっている、とツッコミをいれる前にまた別の女が出てくる。
「私は存在、未来のスクルド。未来は辛いかもしれない。でもこのままではもっと辛いわ」
急に現れた人が記憶喪失で急に現れた人にその人の記憶を取り戻せと言われて私はもう頭がパニックになっていた。
元々頭がいいわけでもないのにこんなに早く話を進められては心も身体もずたず…ついていっていない。
それでも本能か何かか、思わず聞いてしまった。
「でもどうやって?」
「やり方は簡単」
髪はショートカットくらいのウルドが話す。
「でも難しいわ」
ロングで真っ黒の髪のヴェルダンディ。
神様は簡単と言ったり、難しいと言ったり、何と優柔不断なのだろう。いや、気まぐれなのか。
「言ってる意味が分からな…」
「今までこの人がやってきたことをするの」
一番年下なのか、3人の中では一番幼そうな顔のスクルドが答える。
それに続けてウルドが言う。まるで3人で会話を繋いでいるようだ。
「でも決して楽しいものではない」
「それは…私じゃないとダメなの?どうして私を選んだの?」
誰かに押し付けようとする訳ではなかったが、この何兆、何億をいう世界の中で何故私の所にに来たのだろう。それだけの思いだった。
「あなたは今とても会いたい人、いえ話したい人がいる」
ヴェルダンディが私の心を読んだように言う。
「過去に失った人」
「!!」
やはり過去の女神と言った所か。何でもお見通しのようだ。
「この人はいずれ、死者を甦らせる力を持つ」
これは多分未来のスクルド。何だかもう、誰が喋っているか分からなくなってきた。
「あなたはあまりにも辛い別れ方をしたの」
おそらくシンのことだろう。あまり触れてほしくなかった。
「神は裁きを下し、時に救わねばならないのです」
平等を保つ為だろうか。だったら何故世の中にはこんなに貧富の差があるのだろう。でも、それを言っていたらキリがない。
「それから…あなたは未来があるのです」
「?」
シンを甦らせようとは思わなかったが、せめてこのペンダントのお礼を言いたい。それから…
そんなことを考えていたらノルンという3人は消えていて、男だけが残っていた。
「ねぇ!」
私は男の方を向いて少し強気で尋ねる。それに反応したのか、男は私の方を向く。
「さっき私に攻撃したの、あなたなの?」
もし、何もせずにあんなことができるのなら死んだ人を甦らせることもできるのではないかと思ったからそんなことを聞いた。
半分、答えてくれないと思っていた。それを覚悟して名前も聞き出す。
「それから、名前は?もしかしたらこれから私あなたを助けなきゃいけないんだから名前くらい教えてよ!」
まだ助けようと決めたわけではなかったが。
「……ユナ…」
「へ?」
「俺の名前はユナ・ウォータン。確かにさっき攻撃したのは俺だ」
どうやら名前は覚えているらしい。さっき俺は誰だと言ったのは存在自体に疑問があったのだろう。
「何で攻撃したのよ…じゃなかった、じゃあ死んだ人を甦らせれるって本当なの?」
攻撃したのは恐らく私を敵だと思ったからだ。こっちからすればそっちの方が空き巣まがいなんですけど。
「俺は知らない。…今のは運命の女神だろ。未来のことなど俺が知るわけない」
言われてみればそうだ。だいたい、運命の女神があんな未来の話をしていいのか。セオリーから言ってそれは言ってはいけないんじゃ…
いろいろ考えても仕方ない。とにかくこのユナってやつは私が必要なんだろう。
「っあーもう分かった!!私が何とかすれば良いんでしょ!!やってやるわよ!そのかわり、ちゃんと…ちゃんと死んだ人と話させてよ…?」
「……」
知らないこと、分からないことは話さない。それがこいつのポリシーか。
「…くそ…とにかく、今日は待ってよ。まだ夜中だし。明日になったらいろいろ調べてあげるから!」
そう言って私は部屋から出ていこうとした。これからまた寝直しだ。
「待て」
「へ?」
急に呼びとめられたので変な声を出してしまった。
「逃げる気か」
「逃げるって何がよ?だからまた明日来るって言ってるでしょ」
まだ敵意はあるようだ。
「俺の記憶を取り戻すにはお前が必要なら逃げることは許せない」
「だから逃げないって!」
こいつだんだんめんどくさくなってきた。
「とにかく、あなたについて調べないとどうにもならないでしょ。神様と関係あるってことは何かそっちらへんのことぐらい本に載ってるだろうし」
そうでなくとも、なんとなくこいつは有名な感じがしていた。アクマで感じ、だが。
「私、部屋戻るけどどうする?一応、家族にはばれたくないんだけど。
何処も行くとこないならここにいてもいいけど、絶対この部屋から出ないでよ」
迷うぞ。
私はそう言って部屋を出ていった。もちろん返事はなかったが、動く様子もなかったので大丈夫だと思った。
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ちょっと長すぎたか…いやでも切るタイミングがつかめなくて…