princess
5
「おい、起きろメルナ!いつまで寝てる気だよ」
カイル兄が私の布団を力いっぱいはがす。
「うーん…まだねむ…」
はがされた布団を奪回し、再びかぶり直す。
「ハァ?!お前昨日寝たのそんなに遅くなかっただろ?熱でもあるのか?」
まさかそんなはずないというように聞く。
「ちぃーーーがぁうぅぅぅぅーーー昨日ちょっといろいろあったのーーー」
急に男が現れたなんて言うわけにはいかなかった。
「はぁ?なんだよいろいろって。まぁいいや。早く来いよ、お手伝いさんに迷惑かかるだろ」
「うん…すぐいくー…」
カイル兄が出ていったのを確認してもう一度寝る。私はそれから30分程寝た。まだユナはあの部屋にいるのだろうか。
「おはよー…」
昼近くなって私は起きた。はっきりいってまだ眠気は覚めてない。
「おはよ、お姉ちゃん!もうお昼だよ?」
メイルは大抵早起きだ。私が普通に起きる時よりも早い。
「っあーホントだ…とにかくご飯たべよ…」
と言ってももう朝と昼は一緒になってしまう。でも、どっちにしろ調べ物をするので昼ご飯は早く食べようとしていたから丁度いい。
「メルナ様、食生活はきちんとしていただかないと体調を崩してしまわれます」
じいやが起きるのはもっと早い。4時頃だろうか。
「うん、分かってる。ちょっといろいろあってね」
私はめったに病気なんてしないし、風邪さえもあまりひかない。至って健康すぎるくらい健康だ。
ただ、最低5〜6時間は寝るようにしないと必ずと言っていい程熱を出して寝込んでしまう。そういう体質らしい。
「朝…昼食にいたしますか?」
「うん」
カイル兄もじいやも深いところまで聞いたりはしない。私があまり話す気はないと知ってのことだろう。
「ノ…ノ…ノル…ノルン…と……あ、あった!」
昼食の後、文献室に行き、昨日会ったノルンって人達について調べていた。これから調べていくしか術はない。
「北欧神話の中の運命の女神…北欧神話?何、じゃあユナは北欧の神様なの?」
一応北欧神話というキーワードで調べてみた。だが…
「あれ…何これ」
"北欧神話"その目次は確かにあった。だが、内容はまったく記載されていなかった。というより、途中で切れていた。
そこに書かれて会ったのはこうだ。
世界の真ん中から見て南に位置する深淵ギンヌンガカップ。そこは虚空にある裂け目。
ギンヌンガカップを中心として北には極寒の世界ニブルヘイム、南には灼熱の世界ムスペルヘイムが存在する。
その2つの世界の温度差により水滴がたまり、そこからは原初の巨人ユミルと牝牛アウズフムラが生まれる。
ユミルはアウズフムラにより育てられ、やがて両脇と足から子供を産む。
脇から流れる汗からはミーミルとベストラという男女の巨人、足を擦り合わせることにより6つの頭を持つスルーズゲルミルを生む。
一方、アウズフムラは寒暖の差によりできた塩と霜のついた石の塊を舐めていた。
やがてそれは人間の形に変化し、3日目にはブーリという男が誕生する。
ブーリはボルという息子をもうけ、ボルはベストラとの間に子供をもうける。その子供とはオーディン、ヴィリ、ヴェーの3人である。
そう書かれ、その後は間があき、次の全く別の項目のことが書かれてあるだけだった。
「何よこれ…?」
役に立たない本ね、なんて平凡なクレームではない。本ともあろうものがこんなことがあっていいのだろうか。
調べ物をしようとすればやっと見つけたページをめくるとそこには何も書かれていない。これは役に立たないで済むものではない。
欠陥商品ではないか。でも、どの本を見てもその北欧神話の部分のところだけ何も書かれていなかった。
世には何万、何億冊と出版しているのだから、1冊や2冊の欠陥はあるかもしれない。でももう10冊ほど見たが、どれもこの状態だ。
まさかうちの家だけ欠陥商品が集まっているのか。新手のいやがらせだろうか。
「まさかあの人、ユナが記憶をなくしているから?」
もしかしたらユナが北欧神話の重要人物で、神話全体に大きく関わっている人だとして、
ユナの記憶がないせいで本にも今まで起こった事が書かれていないとしたら…
全てつじつまがあう。ユナが出てくるところを全て削除してあるのかもしれない。
本当に彼が重要人物なら、殆どのところは削除してあるだろう。
私はいつの間にこんなに頭が良くなったのだろう。周りが慣れない本ばかりで頭がどうかなってしまったのだろうか。だったらこのままでもいい。
「どうすりゃいいのよ」
頭が良くなった割には手がかりが何もなく、これからどうすればいいのか分からない。
「おいメルナ」
とりあえずユナのところに行ってみようかと考えていると、急に後ろから声をかけられた。
「カカカカカイル兄?!何よ、急にびっくりするじゃない!」
「お前昨日何時間寝た?」
私は思わず読んでいたものを閉じたが、カイル兄は特に興味は示さなかった。
「うんと…6時間ちょっとかな…」
しまった、バカ正直に本当のことを言ってしまった。
「ギリギリだな…お前なぁ、ちゃんと7時間は寝ろっつっただろーが」
「うん…ゴメン…」
憎まれ口をたたいてはいるが、いつもカイル兄は私のことを心配してくれる。
「熱はないな?」
「うん、ありがと」
それだけ聞くと、カイル兄は出ていった。恐らく今朝私が眠そうにしていたのをみて来たのだろう。
「……っと、ユナのところに行ってみるか」
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後書き
訳のわからんヒロインちゃんです。カイル兄様を書くのは楽しいです。