princess
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「シン、誕生日おめでとう。今日はララおばさん、あんたのお母さんがご馳走作ってくれるって。
私も行ってあげるんだから素直に喜びなよ」
私はただ四角いだけの石に語りかけていた。そこにはこう刻まれている。
シン=イリーナ 安らかに眠る
もう涙も出ない。多分いっぱい泣きすぎたんだよ。あんたみたいなヤツの為に、もったいない。
「メルナちゃん!!メルナちゃんいる?!」
ララおばさんは嵐の中、お城まで駆けつけ、目に涙をいっぱいためて私を訪ねてきた。
「ララおばさん?!どうしたの?!こんな雨の中っ!!とにかく中に入って」
「それどころじゃないの!!シンが!!シンが…!!」
話そうとすると次から次へと涙が溢れてくるようだった。
「おばさん?どうしたの、シンがどうしたの?」
「シンが…」
私は言葉を失った。本当に自分の国の言葉を忘れてしまったかと思った。
「シンが…崖から落ちてそのまま……!!!!」
それ以上はただ泣き崩れるだけだった。私も泣いているおばさんを見ているだけで、慰めの言葉1つもかけてやれなかった。
頭では分かっているのに心が追いつかない。
「本当、バカじゃないあんた…」
シンは小さい頃からの私の幼馴染だった。何をするにも一緒で、10歳くらいまではトイレ以外はずっと一緒にいた。
さすがに10歳すぎるとお風呂は別々に入った。それから寝るときも。お前と一緒に寝たら身が持たないと言われた。
そういえばいつかカイル兄と一緒に寝たとき、朝起きたらカイル兄がベットの下でボコボコになっていた。何があったんだろう。
とにかく1日の半分以上はシンと一緒だった。それがあの日。
その日も一緒に遊んでいた。というよりも喧嘩していた。私達はいつも喧嘩ごしで遊ぶ。
雲行きが妖しくなってきたので帰ろうということになり、お互いそれぞれの家に歩き出した。
「あ!!忘れ物したーーーーっ!!」
「は??どこに?何を?!」
「さっきのとこ!!お母さんから貰ったペンダント!!」
「何でそんなもの忘れるんだよ?!」
「何よ、シンがボクシングごっこやろうっていうからはずしたんでしょーー!!」
「のってくるお前が悪い!」
それは屁理屈だ。
「とにかく取りに行ってくる!」
「待てって!!今日は嵐みてーになるって母ちゃん言ってたぜ?今から行ったら危ねーよ!!」
「だってあれお母さんの形見なんだもん!!私の誕生日にもらった…!!」
「明日取りに行けばいいだろ!!一緒に行ってやるから今日はもう帰るぞ!」
私は後ろ髪をひかれながらも家に帰った。それから数時間後だった。ララおばさんが飛び込んできたのは。
シンは忘れものを取りに行ってくると家を飛び出した。そのときはもう暴雨暴風となっており、大人でも足元を奪われそうだったという。
私達が遊んでいたのは崖の上だった。木登りが得意だった私は、その崖の上の低い木の枝にペンダントをかけていたのだ。
シンがいつまでたっても帰ってこないので心配していたところ、知り合いの人からシンが崖の下で倒れているのを聞いたそうだ。
そのときはすでに意識も、脈も無かったそうだ。
ただ、右手にはしっかり私のペンダントが握り締めてあったらしい。
それも跡がつくくらい、強く。
「シン…これはお母さんと、それからあんたの形見だよ」
胸にかけてあるペンダントをそっとつかんでつぶやく。
おそらくシンは木に登ってペンダントを取ろうとしたんだろう。登って手に取ったところを強風にあおられてそのまま崖の下へ。
今なら背伸びさえもしなくても届く低い木なのに。あの時はもっと高く感じた。
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後書き
なんか自分でもこの回好きです。
自分の中で割とシン好きなんですよ。扱いやすいです(親ばか)