princess 1

「じーや!!私ちょっとお散歩行ってくるわ!!」 「!!なりませんお嬢様!!外にはどんな不逞な輩がいるやも知れません!せめて護衛を!!」 「お散歩に護衛なんてつけたら楽しくないわ!!大丈夫、自分の身くらい自分で守れる!!」 「お嬢様!!」 私は爺やが止めるのを聞いていたが、無視して外に出た。今日はとても天気がいい。洗濯日和とはこんな日だろうか。 「本当にもう、あのおてんば嬢は…」 爺やが涙を拭っているところに、若い男がその肩をたたく。歳は19から20前後だろうか。 「まあまあ、大丈夫だよあいつは…"自分の身くらい自分で守れる"あの言葉にウソはねーさ。  何より兄である俺が投げ飛ばされたくらいなんだから」 これは私の兄、カイル・イザラ。どうでもいいけどこいつにはプライドってものがないのか。 「カイル様…」爺やは涙目で振り向く。 「…まあ、その通りでございますが…」 否定しろよ。 時代は中世ヨーロッパ。人々は農耕に勤しむ者、武器を持つ者、王座で酒を飲む者、それぞれだった。 私、メルナ・イザラはその中でも酒を飲む者の中に入っているのか、お城に住む者だった。いや、お酒は何でないけど。未成年だし。 少なくとも普通に生活、いや少し贅沢な暮らしをしているのかもしれない。 父はこの国を治める王であり、妻である母は女王だった。 父母共に事故で亡くなり、今では私の家族は兄と妹だけとなった。 それに、身の回りの世話をしてくれる爺やことヘレス・ニアも私達にとって家族同然だ。 爺やだけでなく、この城に仕えている人はみんな仲が良い。長い間、このお城で働いてくれているからだ。 父と母がいなくなった今、国王はカイル兄、女王は私となっているんだけどそれは名前だけ。 カイル兄は頭がいいから国王を任せてもやっていけると思う。でも私には政治とかそんなのは絶対理解できない。 第一、戦争とかそういう争い事が嫌いだ。参加なんてしたくない。 でもいくら女王という肩書きでも、人一人の意見で戦争を止めることなんてできない。 これまで何度も反対したが、結局は戦争になり、幾度と死傷者を出している。 国の揉め事だから、争うなといっても無理だろう。だけどせめて一度話し合ってほしい。 「シン……」 私は、誰にともなく、よく晴れた青い空を見上げてつぶやいた。 小さな雲が数えるほどあり、何かと形をなしている。あ、あれコブラ。 「アラ!!メルナちゃん?」 ああ、蛇に噛まれたら痛いだろうななんて間抜けなことを考えていたら少し向こうから明るい声が私を呼んだ。 「あっ!!ララおばさん!!」 お姉さんとお世辞でも言ってあげたかったが、とてもそんな歳じゃない。 「どうしたの?お散歩?」 「うん!おばさんは?買い物?」 「ええ、今日はシンの誕生日だからね。祝ってあげなきゃ」 私は"シン"という響きに少し戸惑ってしまったが、すぐ笑顔を作る。曖昧な笑顔で変顔になってなければいいが。 「そっか。今日、だね」 「そうだ、メルナちゃんも今夜うちにおいでよ!!ごちそうつくるから!!」 「ホント?!じゃあお呼ばれしよっかな!」 「カイルくんとメイルちゃんも連れてきなよ」 メイルは私の妹だ。まだ5歳。 「うん!!ありがと!」 「きっとシンも喜ぶよ」 「……だといいな。あ、これからおめでとうって言ってくるね」 「ええ、お願い」 おばさんは懐かしいものを見るような優しい目で私を見送った。 シン、ちょうど3年前の今日だよね。あんたと離れ離れになったのは… 「でもよかったです」 「は?何がだ?」 カイル兄は、優しく微笑む爺やに振り向く。 「メルナ様が元気になられて…」 「…あぁ…あいつがいなくなってずっと落ち込んでいたからな、メルナのやつ」 遠い昔のように話す。でもまだ3年しか経っていない。 「えぇ、あの時はメルナ様がメルナ様でなかったような気がします。なんというか、魂だけが何処かに行ってしまわれたようで…」 私は一体いつ幽体離脱したんだろう。ひどい言われようだ。 「そういえば今日はあいつの誕生日だったな」 「ええ、それと……」 爺やは少し目を伏せて、静かに言う。 「…命日…」

後書き  帰ってきました。princess。  なんか中世ヨーロッパとか言ってるけど、結構関係なかったりします。