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「ったく、無茶するよな、兄貴、も!!」
「昔からですよ」


シヴィルもロリィもリールも、飢えた獣のように襲ってくる男達と戦っていた。力だけなら圧倒的にこちらが劣っていたが、魔法を使えば接近戦を得意とする彼らに立ち向かうことができた。


「まさか他の海賊脅して乗り込むとは思ってなかったな」
「・・・あの時のヴィスウィル様、怖かった・・・・」


次々と魔法を繰り出しながら、リールは少し前のことを思い出していた。
麗を連れ攫われたことを悟ったヴィスウィルは、丁度同じくして停泊していた海賊達を一瞬で牛耳り、麗が乗った船を追いかけさせたのだ。
丁度その様子を見ていたリールは、震えて腰を抜かしていたらしい。


「本当、あんな必死な姿、久々に見ますね」


海賊にも引けを取らない。魔法と組み合わせながら、次々と敵を倒していた。ただ、その目には敵の姿など映ってはいない。
求めるものを一心不乱に捜し続けている瞳。大きな声で、この耳を劈くような轟音でも驚くほど響くように。

「ウララ!!」


















































怖かった。
恐れていた。
不安だった。


でも、













――――――――信じていた。













来てくれると。
もう一度、その名を呼んでくれる、と。


「―――ス・・・・――――っヴィス!!」
「!」


腕が傷付こうが、足が傷付こうが、顔が傷付こうが、構わなかった。
ただ、一秒でも、一瞬でも早く、彼の元へ行きたくて。



















「ウララ!!」


















引き寄せられるように、二人はお互いを抱きしめた。











そこに、たくさんの言葉はなく。

















「――――・・・待ってろ」


麗の頭を軽く撫で、ヴィスウィルは戦いに戻る。






やっと敵が見える。





探し物はもう、ここにあるから。


















































結局、勝ったのはアリスの方の海賊だった。だが、どっちが勝とうと、ヴィスウィル達には最初から関係ない。目的は麗の奪還のみ。
ヴィスウィルが牛耳った方の海賊は逃げて行ったが、ヴィスウィル達はそのままアリス達のほうの船に残った。











「もう追いついちゃったんだね。つーまんない」


アリスは頬杖をつきながら麗を含む五人を見た。


「アリスさん、こいつら始末しなくて―――・・・」
「手を出すなよ」
「・・・は、はい」


いきり立っている船員に、睨みを利かせると、アリスは麗の目の前まで来る。
麗は、ヴィスウィルの服を握り締めながらも、キッと睨み返した。


「・・・どーせ俺達の所に残る気はなかったんでしょ、最初から」
「・・・・・」


言われて気が付いた。
地球に帰れるかも、と聞いて迷っていたのは、ただフリだけだったのかもしれない。そのままアリスに付いて行くなど、本当は考えてもいなかった。


「でもいいの?地球に帰れるかもしれない希望を自分で断っちゃって」
「・・・・・・・」


ヴィスウィルも、シヴィルもロリィもリールも、麗を見ていた。話の意図は掴めないが、彼女の答えは気になる。
元々、麗の目的は地球に帰るための旅なのだ。
だが、彼女はゆっくりと首を横に振った。


「・・・・いいの」


静かに、強く。


「私はヴィスと一緒に国を守るって決めたの」


同情なんかではなく、自分から望んだこと。目的を見失いはしない。だが、そのために犠牲にするものは出したくない。


























「絶対に、ラグシールを壊させやしない」

























「!」


はっきりと麗の口からその言葉が漏れた瞬間、アリスに一瞬の驚きがあったのに気付いたのは、ソウだけだった。


「協力できなくてごめんね。―――――・・・さよなら」


先ほどの海賊から奪った小船に乗り込み、櫂を押して離れる。
アリス達はその様子をただ見つめるばかりで、追ってくる様子はなかった。
あまりにもあっけない事の終わりに、なんとなく麗は不安になった。その様子を見てか、ロリィがきゅっと手を握ってくれる。


「レイ様、おかえりなさい」
「・・・・ロリィ・・・・ただいま。ごめんね、心配かけて」
「いいえ。絶対にまた会えると信じてましたから」
「ほんっと!人騒がせなんだから!」
「はは。リールもありがと」


憎まれ口を叩いてはいるが、リールの表情は、ほっと一息ついたような顔だった。シヴィルも麗の無事な姿を見ると、緊張の糸が切れたような息を吐いていた。


「―――・・・ヴィスウィルも、・・・ありがと」
「・・・・・・」


後ろから見つめる麗に振り向きもせず、ヴィスウィルはただ船の行く先を見つめていた。麗も、返事が返らないことが分かると、そのまま黙ってしまった。
しばし沈黙が流れると、それを切ったのは意外にもヴィスウィルだった。


「―――――ウララ」
「ん?」


びくりと肩を震わせるが、あくまで何でもないかのように振舞う麗。ヴィスウィルはやはり目を合わせようとはしなかった。
だが、そこに向いている意識。








「・・・・悪かった」
「!」


小さくそう言った声。まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかった麗は、反応が遅れてしまう。


「・・・えっ・・・と、いや、その・・・・謝るのは私の方だよ。無神経なこと訊いちゃって・・・ごめんなさい」


まだ、あんなことを訊いていい仲ではなかったのだ。壁なんてとれてはいなかった。こんなに一緒にいても、まだまだ大きな隔たりは目の前にある。
それが現実なのだと思い知らされた。



















「失ってはいけなかった」
「え?」


何が、とは訊かなくても、なんとなく分かった。
彼が空を見て話すときはいつも。


「好き嫌いではなく、仮にどちらかの想いがあっても、失ってはいけなかったんだ」


彼は精一杯、麗の質問に応えようとしてくれたのであろう。
だが、そうするには彼にはあまりにも難しすぎて、簡単な言葉さえ見つからない。


「好きか嫌いかと言われたら、多分、

















































――――――――――、好きだった」































後書き

17章、意外と長かった。
終わったぜ・・・・
ソウとアリスの絡み、楽しかったんだけどな。
20120126