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ご丁寧に誘拐された身でありながら朝食まで取らせてもらい、身を縛られていたわけではなかったので、船内を散歩することもできた。なんて呑気な被害者だ、と麗は自分でも思ったが、ここは海の上。逃げようにも逃げられないのだから今更足掻いてもどうしようもないことを悟っていた。
甲板に出て、このまま海賊の仲間となってしまうのか、などとボーっと考えていたら、後ろから何者かの気配がする。


「姉貴!」
「・・・・・・・・・・・私?」


呼ぶのはこの船の船員。イザラと町を襲っていた輩の一人だった。そして、麗の記憶の中には、自分が吹き飛ばした覚えがある。


「そうです姉貴!」
「いや、こんな大きな弟を持った覚えはありません」

というか、どう見ても麗より年上であった。数字にして二十五、六といったところか。そんな奴が明らかに年下の麗を真っ直ぐ見て、姉貴と声を張り上げている。


「姉貴、アリスさんと知り合いだったんですね!だからあんなに強かったんだ!俺、蹴られた足がまだ痛いっす!」
「すみませ・・・・・いや違う!」


危うく自分の身の環境を忘れて謝ってしまいそうになった。


「ところで姉貴、アリスさんどこいったか知りませんか?」
「知らないわよ。姉貴って呼ぶな!」


そういえば今朝見てから一度も会っていない。海に潜ったということもないだろうから、この船の中にいるはずだ。
いや、姿が見えない時くらい、奴のことは考えないようにしようと麗は小さく頭を振った。
だが、彼について気になることは山ほどあった。まず、身元だ。この海賊の仲間だということは分かったが、一緒にいるだけどこんなに崇め奉られるのは、彼が船員にとって憧れるべき存在であるからだろう。

「ねぇ、アリスって一体何者なの?そんなに偉いわけ?」


船員の青年は一瞬きょとん、として再び顔を輝かせる。


「それはもう!俺はアリスさんと最初からずっと一緒だったわけではないので、詳しくは知らないんですが、彼はこの海賊が結成した数少ない初期メンバーなんです!」


まるで自分のことのように誇らしげに話す。海賊とはいえ、その真っ直ぐな瞳に悪い気はしなかった。
青年の話によると、この海賊はその業界では有名らしい。その結成時のメンバーで今も残っているのがパプコと名乗る船長、イザラ、アリスの三人のみだという。他はやめてしまったり、大半は死んでしまったらしい。その中に知っている人もいるのか、青年は声を落としながら喋っていた。


「でもアリスはあのマカ国に五年くらいいたって言ってたけど」
「それは・・・・アリスさんは五年前に突然船を下りられたんです」


何でも、調べたいことがあったらしい。海賊をやめるわけではなく、また時がきたら戻る、と言い残して。


「今回がその時ってことね」
「はい。俺、嬉しいんです。アリスさんが戻ってきてくれ・・・」
「なーにやってんすか」


突然甘ったるい声が聞こえ、振り返るとそこには噂の人物が壁に寄りかかって立っていた。


「あんたも何訊いてんの」


麗の方へ近づきながらため息をつく。


「だってアリスが何も言わないから」
「だからってこの人に聞かなくてもいいでしょ」


アリスはちら、と青年を見た。いまだに輝かしい顔でこちらを見ている。本人が出てきてさぞや感動していることだろう。


「いいじゃない。この人、あなたのこと大分信頼してるみたいよ」
「はあ?この人が?」


ありえない、とでも言うように青年を疑わしい目で見る。よく知っているのだろうか。


「うん。だってアリスのことすごくよく知ってて・・・好きじゃなきゃこんなによくは知らないでしょ」
「そりゃ嫌でも知ってるでしょ。






















―――――――船長なんだから」


















































「・・・・・・・・・・・・・・・は?」














後書き

結構この海賊好きだなぁ・・・
20110602