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「どういうことよ!?海賊って!!町医者じゃなかったの?!」
「そうだよ。町医者兼海賊。本業は海賊の方だけど」
「いやーーー!!離してーー!!」
「痛!!」


麗は全力をもって暴れ、落ちてもいいから離れようとするが、その腕は決して緩まることはなかった。


「無駄だと思うけど」
「なんでよ!?」
「だって俺、パプコ師匠直伝、パプコ流体術会得してるから」
「うさんくさいわね。誰よパプコって」


いんちきくさい体術に力で負け、しかも信用した人物に裏切られたようで、麗は少しヴィスウィルに謝りたくなった。


「何で私を攫うのよ?」
「え?」


敵わないと諦めた麗はせめてそれだけでも聞き出そうとした。


「私はただの旅人だけど」
「ああ・・・君を診たときにちょっと興味が湧いてね」
「興味って・・・」

























「レイちゃん、この世界の人じゃないよね?」
「――――――!!」
































































「くそっ!どこだ!」


攫っていった犯人が海賊なら船へ向かえばいいが、先ほどの男達の話によると、犯人は海賊の仲間ではないと言っていた。それでも万が一のことを考えて海へ向かっているが、初めてこの町に来たヴィスウィルにとって、分が悪すぎる。人通りの少ない所を通って逃げたことくらいは予想ができるが、それにも限度がある。ヴィスウィルが知らないとはいえ、相手はアリスだ。五年もこの町に住んでいる彼との差は大きい。
ヴィスウィルはもう一度悪態をついてスピードを上げた。何に対しての悪態かは本人にも分かっていなかった。























































「・・・・・・・終わった・・・・・・・」
「何が?」


麗は虚しく遠ざかる浜辺を見据えた。確か船が珍しい世界だと言っていた。海へ出てしまったら助けにはまず来れないだろう。アリスの肩から下ろされたのはいいが、先の見えない未来にへたり込む。
奪った金や食料をある程度片付け終わると、指示を出していたイザラがアリスに近寄ってくる。不気味な笑い方が忘れられず、麗は思わず身構えた。


「アリスさん、その女、何者なんですか?」
「ん?あー・・・・俺の彼女!」
「誰がよ!」
「あ痛!」


イザラのために作っていた拳をアリスに使ってしまった。


「それにしてもお久しぶりですね。この船を下りたのが五年位前ですか・・・」
「ああ。新しい仲間も増えたみたいだな」


アリスはせわしなく働く船員たちを見回す。昔からの仲間であろう男達はアリスに声をかけたり、頭を下げたりしている。周りの様子からすると、彼は相当なポジションにいる存在らしい。


「さ、行こうか」
「どこに?」


デートの約束でもしていた恋人のように、当然、といった顔でアリスが麗の腕を引っ張る。こんな船の上では逃げようにも限界があるので、大人しく引っ張られる麗だったが、アリスはどうも船室の中へ向かっていっている。


「ちょっと、どこいくの?」
「どこって決まってるだろ?俺の部屋」
「はあ?」
「もとい、医務室。ここに来るまでにすりむいてんだろ」
「え?」


指差されて見てみると、左腕の肘近くをすりむいていた。麗自身気付いてもいなかったが、おそらくアリスに担がれて暴れている際にどこかにぶつけたのだろう。


「このくらい、ほっとけば治るって」
「だめだって。ばい菌入るだろ。無理矢理攫ってきたお詫びに手当てくらいさせてよ」


言うほど悪い奴ではないのかもしれない、と頭の隅で思い、しぶしぶ頷いた。








































中はマカ国にあったアリスの家に似ている、簡素な部屋だった。装飾の少ない棚などには、必要最小限の生活用品と医療器具が綺麗に収納してある。生活感のない、とはこういったところなのだろうと、麗は地球の自分の部屋を思い出しながら思った。


「・・・・・片付けなきゃ・・・」
「何を?これでも一応綺麗にしているつもりなんだけど。医務室だし」
「いやいや、こっちの話」


アリスは大して興味もなかったのか、座って、と麗を椅子に促し、自分も向かい側の椅子に腰掛けた。慣れた手つきでピンセットやガーゼを扱い、麗の傷を消毒していく。
タレ目なせいか、少しでも下を向くと彼はすぐ伏し目がちになってしまう。その光景が異様に綺麗で、思わず麗は見つめていた。


「ねえレイちゃん」
「な、何よ?」


女の自分が嫉妬する睫毛の長さだと、なんとなく考えていたら、目も合わさずアリスが口を開く。
妙に落ち着いた声で、どきりとした。










そして、次の言葉は心臓がはねるのが分かるほど驚愕的なものであった。


















































「――――・・・・・元の世界に帰りたいと思わない?」










































「え・・・・・・・?」




































後書き

実は重要参考人なアリスさんでした。
20110426