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鳴り響く音楽、人々の騒ぎ立てる声、明るすぎる街灯。いや、それ以前にまだ朝だ。早めの点灯を心がけるのはよいが、いくらなんでも早すぎるだろう。
街も人の声で賑やかになってくるころ、カミラは起きて子どもの朝食を作る。時間にして8時ごろ。だが今日は3時間ほど早く起きた。というのも、外の騒ぎが関係してくる。今日は年に一度のこの町での祭りなのだ。毎年この時期になると決まって行われる。町の人が思い思いに店を出したり、イベントを行ったりする。言わば大規模な文化祭のようなものだ。
だが、いくらなんでもこんな早い時間からする必要がどこにあろうか。一番早い者は四時くらいから楽しんでいるやつもいる。
カミラ達は毎年、カキ氷を売っている。低予算で高収入を考えてのことだ。確かに祭りも充分楽しむ。だがその裏でその後の生活もきっちり考える、という二倍の楽しみ方をカミラ達は知っている。
今日はチビちゃん達の朝食に加え、祭りの準備もしなければならない。段取りを考えながら台所にいくと、火を扱う音が聞こえてきた。
「・・・・レイ・・・?」
「あ、カミラ、おはよ。待ってて、もうすぐ朝ごはんできるから」
「できるからって・・・え、何でこんなに早く・・・」
老人でも少し早いと思える時間だというのに、もうできる、とは麗は一体いつから起きているんだ、と思いながらも、カミラは急いで彼女を手伝う。
「あー、いいよ、座ってて。あと盛り付けるだけだし」
「そんなことできないって。ごめんね、気使わせて。寝ててもらってよかったのに。お客さんなんだから」
「目が覚めちゃってさ。することなかったから作っただけだって」
「あー、ごめん。外うるさかったでしょ?今日祭りなんだよ。私もいっつもこれで起こされる」
麗は、はは、と笑っていたが特に肯定したわけでもなかった。目が覚めたのではなく、起きていたのだ。教会でのできごとが忘れられず。
月明かり、白銀の髪、冷たい唇。何もかも鮮明に覚えている。ここまで綺麗に覚えていると、夢だったんだ、なんて自分を思い込ませることもできず。
それでも忘れようと頭を振ったときだった。
「もう起きていたのか」
聞きなれた声が耳をつく。
「ヴィスウィル、おは・・・・よ・・・」
カミラの挨拶はヴィスウィルには届いていなかった。
カミラの他に、もう一人いた少女を見つけ、いつもの無表情な顔で見つめる。
「・・・・ヴィス、おは、よう・・」
「・・・ああ」
そこにカミラは入っていけない。明らかに昨日までの二人の様子とは違っていたが、今はそんなことどうでもいい。
ヴィスウィルが自分を向いてくれない。そればかりがカミラの頭の中をめぐっていた。
麗はそのままさっとヴィスウィルから目線をはずすと、朝食の準備を再開した。
「今日何かあるのか?」
「お祭りよ!」
「祭り?」
「そ。あんたたちにも手伝ってもらうからね」
「へ?」
「は?」
ギクシャクしていた二人が久々に息を合わせた瞬間だった。
「なーんで私達が祭りの手伝いなんて!私達は先を急いでいるんですのよ?!」
「タダで泊めてやってんだからそれくらいしなさいよ!ね?一日だけだから」
「あたりまえだろ!何日もできるかっつの!」
そのうち他の者もわらわら起きてきて、朝食をとった。祭りを手伝えというカミラに、一度は全員で反対したが、その強引さには勝てず、三日ある内、一日だけなら、と承諾した。
先を急いでいるといっても、スルクがこの国に入国していないなら、まだ後ろにいるのだろう。一日くらいなら余裕はある。
だが、余裕がないのは。
「ヴィ、ス・・・はい、お茶・・・」
「ああ」
「ねぇロリィ」
「はい?」
リールが横に座るロリィにそっと耳打ちした。
「ヴィスウィル様とレイ、何かあったの?」
「さあ・・・朝から様子がおかしいですよね・・・」
「喧嘩でもしたんじゃねーの?」
くだらないとばかりに流すシヴィルに対し、女二人は真剣そのものだ。女の勘というものがどこかで働いているらしい。
「リール!早く食べてよ。今日は忙しいんだから!」
「う、うっさいですわ!早食いは太りますのよ!」
「一回や二回したところで変わんないわよ!ほら、はーやーくー!」
「やめっ!やめなさ・・・っふぐっ・・・!」
麗は容赦なくリールの口にパンを詰め込む。平静を装うのに必死だ。こうでもしないと何をしていいのかわからない。リールには大した迷惑だが。
「じゃあレイ、あとよろしくね!私、屋台の準備してくる!」
「あ、うん!」
カミラは忙しそうに子ども達を何人か引きつれて、外に出て行った。
後書き
リール、本当にかわいそう。
20100215
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