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「みんなー!今日はバーベキューよ!気前のいい王子様が奢ってくれるってー!」


もちろん、ヴィスウィルから言い出したのではない。カミラ達の幸せとはいえない身の上話を聞いたリールが勢い余ってごちそうする、と言ってしまったらしい。意外と情に弱いやつである。
お金に困る旅はしていないし、特に問題もないのでヴィスウィルも無言の肯定をした。


「本当に?!カミラ姉!」
「わあ!僕初めてだよ、バーベキューなんて!」


子ども達はバーベキューと聞いただけで満面の笑みを浮かべていた。きっとここにいる半数はバーベキューなんて未知の料理なのであろう。幸せそうな笑顔につられ、麗も口元を緩めてしまうが、同時に悲しくもなる。


「初めて、なんだ」
「・・・最初で最後かもしれないしね」
「・・・カミラ・・・」


そう言ってカミラはバーベキューの準備を始めだした。子ども達にも的確な指示を出し、楽しそうに笑っている。


「ごめん、レイ!良かったら焼くの手伝って!人数多くて・・・」
「あ、うん!」


無言でヴィスウィルとシヴィルを引っ張り、子ども達の分の肉、野菜をせっせと焼く。


「何で俺が・・・」
「文句言わずに焼く!あー、ホラ、ヴィス!こげてる!」
「知るか。黙って食わせれば問題ない」
「あるわよ!」


ロリィとリールは奥の方で野菜を切っている。本来なら麗もそちらの役回りなのだろうが、焼く方に人手が足りないし、そこで狩り出すなら麗しかいないだろう。実際、男よりも意欲的だ。





























「あー!ルック!それオレのー!」
「早い者勝ちだーい!」
「こら!座って食べなさい!」


お決まりの肉争奪争いを始めた子ども達はカミラの言うことも耳に入らず、周りを走り回っている。これではカミラも肉を食べるどころか焼く暇もない。















「私だったらあんな風に明るく過ごせませんね」
「え?」


切った野菜を運んできたロリィがカミラを見ながらぽつりとつぶやいた。


「とてもじゃありませんが、あの人に重たい過去があるとは思えません。お強い方ですね、カミラ様は・・・」
「・・・・・・うん」


自分だったらどうだっただろうか。
家族円満に暮らしていた麗にとって、親も兄弟もいない世界は想像出来ない。だから実際どうなのかは分からないが、きっとカミラのように笑えるのは多くの月日が必要だろう。
だが、考えてみたら今は一人ではないのか。いや。そう考えてすぐに自分で否定した。
一人ではない。
異世界とはいえ、家族は生きている。あの世ほど手の届かない場所にいるわけではない。確かにそうなのだが、もう一度会えるという保障がどこにあろうか。このままこの世界から戻れなくなれば、一人になったも同然だというのに。




















もう会えない。



















父親、母親、優、累、友達、咲哉。














































誰か否定してよ、




















































誰か。








































































「レイ!危ない!」
「え・・・」



































呼ばれて気が付いたときにはもう遅かった。
前を見ずに走っていたルックは勢いよく麗にぶつかり、後方へ倒れた。だが同時に、力の入ってなかった麗の身体は傾き、熱した網へ向かった。






















「っ!あっ・・・つ!・・っ!」
「レイ!」


とっさに出した腕で全身でタックルすることは免れたが、腕はジュ、と寒気のする音が聞こえた気がした。


「レイ様!大丈夫ですか!?」
「あ・・・うん・・・大・・・丈夫・・・・―――うへあ!」


犠牲にした右腕はみるみるうちに素敵な網目模様が浮き上がり、赤く腫れていった。ひどくならないうちに隠してしまおうと、そえようとした左手はぐっと掴まれ、拒まれる。
そして水道のところまで引っ張られるように連れてこられ、右腕をさっと出される。


「ちょっ、と・・・ヴィ、ヴィス!何し・・・――――・・・っつ・・・っ!」


ヴィスウィルによって捻られた蛇口から冷水が勢いよく溢れ出て、麗の右腕を冷やしていった。だが、すでに皮膚がはがれようとしていた火傷だったため、麗は傷みに顔をしかめる。


「慣れないことするからだ」
「何よ慣れないって。家の手伝いくらいしてるわよ」


なおもヴィスウィルは麗の腕を無言で冷やし続ける。


「あー、もう大丈夫だって、ヴィス。だいたい治癒魔法で治してくれたらいいじゃない」
「治癒魔法はそんなに便利なものじゃない。応急処置のない怪我にはそれ相応の治療しかできない」


その後も数十分冷やし続けたが、それを遠くで見つめる少女がいた。


「・・・・ヴィスウィル・・・・・・・・・・」















後書き

書いてみて思ったけど最後の方ちょっとグロいよね笑
私はそういうの全然大丈夫なんですが、気分を害された方、ごめんなさい・・・
想像などせずにさらっと読んでいただけるとよいかと思われます(他力本願)
20100106