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麗は夢を見ていた。


























初めてこの世界に来た時のこと。








































何故か森の中にいて、それから誰かに会って、何も分からないままその人に付いていって、見捨てられる。あー酷いなー、と思いながらも、わざわざ自分が行く道を通り過ぎてまで森の外へ送ってくれた。はっきり見えるのは後ろ姿ばかり。
そしていつの間にか三人の野党らしきものに絡まれ、そういえばこの前も同じような奴らに絡まれた、なんてその時にはなかった記憶まで思い返しながら三人と戦う。でも力ではやはり勝てなくて、またあの人に助けられる。三人の男達がその人の名前を何度か言っているが、あまりよく聞こえなかった。































足を捻った麗は近くの小屋に連れてこられ、ロリィから手当てを受ける。その後カティと会って、城に来て、王様と会って、馬に乗る練習までして、とんでもない経験地を積んだ。もうそろそろ10くらいレベルアップしてもいいころだろう。








































それから何故か旅にでることになり、風の国に行き、ロリィのお母さんに会ったり、オレジンでとてつもない痛みに襲われたり、熱を出したり。ああ、熱を出すといえば、この知らない青年とシヴィルも先ほどからずっとつらそうだ。
それでも自分を心配してくれたり、助けてくれたり。








































氷の国は本当に長い旅だった。











いつの間にかリールというお姫様もちゃっかり付いてきて、人生で二回も雪崩に巻き込まれるという快挙を成し遂げた。











雪に埋もれた自分を助け出してくれたのはやはりあの人。今までの彼からは考えられないほど声が震えていた。














どうして?











自分のためにこんなに苦しい声を出してくれているのだろうか。






































自分は、あなたを知らないというのに。










































マリスというSの最上級を突っ走る医者にも会え、無事オレジンにも着いた。
この時の彼の言葉は何故かはっきり聞こえた。そう、彼は確かにこう言った。
























”もう、これ以上、何も―――――――・・・・”























後に続く言葉は何だったのだろうか。
聞こえてもいない、記憶にあるわけでもないのに何が言いたいのか何故か分かる気がする。








































オレジンで気を失って、次に目を開けると当たり前のようにその人はそこにいて、頬にぴっと赤い筋が入っている。
何故か治してあげなきゃ、という衝動に駆られた。
だが彼はいい、と言う。
それでも無理矢理治そうとした。















そして――――――・・・・・・
















































ここで初めて彼の顔がはっきり見えた。
出会ったときからちゃんと見えていたはずなのに。































押し倒された身体はぴくりとも動かず、停止していた。













































透き通って割れてしまうんじゃないかという瞳、端正な顔つき、美しいとしか言いようがない銀の髪。薄い唇から漏れる声で言ってくれる、名前。





















この世界でただ一人、自分の名前を本名で呼んでくれる人。


































































































「―――――――ウララ・・・・」
「―――――っ!!」


がばっと跳ね起きた麗はしばらく意識したわけでもない一点を見つめていた。荒い息を繰り返し、徐々に整ってきたところで時間帯はもう真夜中だということにやっと気が付いた。


「・・・・あ・・・・私・・・」


ずきずきと痛む頭を抱え、ふと右に人の気配を感じた。
夢の中のあの青年。




















「ヴィ・・・・ス・・・・」
「うなされていたから様子を・・・・・・・ウララ?」












知ってる。この人を知っている。






























スルクに魔法をかけられたあの時からの記憶だけではない。もっと前からの、この世界に来た時からの。
















冷たいくせにさらっと助け、いつも自分ばっかり傷ついて、本音を言おうとしない。きっと、ルティナのことも言ってないことがたくさんあるはずだ。








































もう何も失いたくないと誓ってくれた。















































名前を、ただ一人、”ウララ”と呼んでくれる。





この人は―――――・・・・・
































「・・・・・ヴィス・・・・・・っ・・・・ヴィス!!」


散らばっていたビーズを掃除機で吸い込むようにヴィスウィル=フィス=アスティルスが出来上がる。
その人が今ここにいてくれることが嬉しくて、思わず彼の腰に手を回した。


「・・・っ?どうした・・・・?」
「ヴィス、ごめん、本当。ごめんね。・・・いっぱい助けてくれたのに、ずっと思い出せなくて。ごめんね、それからありがとう。ウララって、呼んでくれて」
「・・・・・っお前・・・・記憶が・・・・」


驚きを隠せないヴィスウィルに答える代わりににっこりと笑いかけた。
























「ありがと、ヴィスウィル=フィス=アスティルス」




後書き

散々ひっぱった割にこのあっさりよう・・・・
さすが私クオリティといいますか・・・
どうしようかな、とは思ってたんです。
もっとこう少しずつ取り戻すべきかな、と。
でももう一気にぱっと取り戻しちゃったほうが麗らしいかと思いますし、話も進みますし(大半は後者) 20090724