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家に着いた時には麗はもう疲れきっていた。往路だけでも疲れたのに、町であんなことがあり、さらに同じ道を帰っていったのだ。疲れない方がおかしい。つまり、イヴァンとシヴィルはおかしい。


「ただいまーあーつかれたーーー」
「お帰りなさい。レイ様、イヴァン様、・・・・シヴィル様」


傷だらけのシヴィルに少し驚きながらもロリィは笑顔で迎えてくれた。この笑顔を見るだけで疲れが三割はとれそうだ。
そしてロリィは当たり前のようにお茶を淹れてくれた。


「ありがと、ロリィ。・・・・あ、ヴィス」


ヴィスウィルが奥の部屋から出てきたのを麗が最初に見つける。少し、安心したような気がしたのは気のせいだろうか。
ヴィスウィルは無言で麗の横に座った。そのまま、しばらく麗を見つめる(というより睨む)と、唐突に口を開いた。


「何があった?」
「へ?」


顔を上げてヴィスウィルを見ると、その視線は麗の左腕に注がれている。視線を追って麗は自分の腕を見た。少し赤く、手のあとがある。


「あー・・・これね。ちょっと変な人たちに絡まれちゃって。大丈夫よ、馬鹿三人だったし、イヴァンさんが助けてくれたし、シヴィルも頑張ったし」
「オレは頑張っただけかよ」


ロリィによって治癒魔法と手当てを受けているシヴィルが不満そうに口を尖らせた。確かに一番の怪我人がこれではかわいそうだ。


「ははは、うそようそ。ありがと」


麗が笑って手をひらひらさせている間、ヴィスウィルはじっとイヴァンを睨んでいた。
とても感謝している、という目つきではない。


「あー、悪かったよ。目を離した俺が悪かった」
「まだ何も言ってませんが」
「目が言ってんだろ」


イヴァンはそれだけ言うと、寝る、と一言言って部屋へ姿を消してしまった。


「そんな怒んなくてもいいじゃない。シヴィルはともかく、大事な人が傷つけられた訳じゃないんだから」
「・・・・・・・・・」
「・・・・レイ様・・・」


大事な人。それがヴィスウィルにとって誰にあたるのか、何故ヴィスウィルは麗を傷つけられて怒っているのか、本人には理解できていない。
性格そのものは変わっていなくとも、ヴィスウィルとの思い出は消えてしまっている。もしここで、彼が命を落としても記憶が浅い分、それ程の悲しみにしか襲われないはずだ。


「あれ、何?ごめん、私なんか失礼なこと言った?もしかしてヴィス、フラれたばっかりだった?」


周りが黙ってしまったので、麗は慌ててしまった。すべらない話をしてすべった気分だ。


「言ってろ、ボケ」


ヴィスウィルはそう吐き捨てて、外に出てしまった。
























「・・・・何のなのよ・・・・」























































































































































「準備はいい?レイ」
「・・・・うん、かかって来い」
「違うだろ」


朝日が差し込む中、麗とリールは向かい合っていた。お互い真剣な目つき。周りには囲むようにしてみんながいる。


「私があなたを殺すみたいな言い方やめなさい!こっちは必死で魔法を習得しましたのに!」
「あー、ごめんごめん。つい・・・・」























ついに、リールがDisの魔法を使えるようになったのだ。
修行(という名のいじめ)を受けてから一週間たった時だった。最初にイヴァンが予告した期間通りだ。
つまりそれは、リールがとてつもない日々を過ごしたということ。ヴィスウィル達の修行時代が身にしみて分かる。川や花畑なんて生ぬるいものではない。地獄の業火が見えた。


「いいか。失敗すれば記憶が全て吹っ飛ぶこともある。それも覚悟しとけよ」


上着を袖を通さないまま肩に羽織ったイヴァンはいつになく真剣な顔だ。冗談でこんなこと言えるわけない。


「分かってます。それでも、可能性があるなら・・・」












































1%でも。
















































「レイ様・・・・」
「ロリィ、心配してくれてありがとう。もし記憶がなくなっても、私は私だから。今まで通りでいいからね!」
「・・・・・っ!」


途端、留めていた涙がロリィの目から溢れた。


「シヴィルも、妙によそよそしくなるんじゃないわよ」
「・・・・分かってる」


シヴィルが小さくうなずいた。


「リールはちょっと改めて欲しいけどね」
「どういう意味ですの?!」
「あははっ!そういう意味」


リールがキャンキャン騒ぐ。























そして、視線はヴィスウィルに注がれた。
























だが、かける言葉が見つからないのか、そのままリールへ向き直ってしまった。


「・・・・・・・・・・」
「・・・・・それじゃあ、行きますわよ」
「・・・・・・・うん」





















































リールが目を閉じ、すっと両手を自分の肩の高さまであげた。徐々に明るくなる彼女の周り。






























































「・・・・かの者にかけられたルーン魔法、オースィラ。北欧神主神オーディンが拾い上げた喪失を意味する文字、最後のルーンを我が今解除する。我の中のDisの要素よ、かの者のCisのルーンを圧倒し、オースィラを打ち砕け。失った記憶を呼び戻し、かの者の中にヴィスウィル=フィス=アスティルスの存在を確立させよ―――――・・・・」







































延々と続くリールの詠唱はまだ終わらない。
この長い間、魔法を使い続けるのにも相当な体力がいるはずだ。
リールの額にはうっすら汗がにじんでいた。


「リール・・・・」
「オーディン、トール、フレイ、フリッグ、フレイヤ、ロキ、ヘイムダル、ノルン。数多の神の力を借り、我は今ルーンを解除する―――――――・・・!」


















































ぱあ、と光が一気に強くなり、目の前は真っ白になった。






























聞こえるのはリールの声だけ。
























































「ベオク――――――・・・・!!!!!」





後書き
なーんか最近下手な文章がさらに下手になった気がする。
ちょっと修行しよう修行。
20090710