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「ねぇ、お父様・・・」
「何だ?」


ラグシールの城では何とか一難を逃れ、復興作業に忙しい毎日を送っていた。だが、あくまで働くのは兵士や民。王は玉座で悠々と座っていた。労働者から文句は言われるが、この王がいなければ国は回らない。憎たらしいことこの上ない王だった。


「今頃、あの人はどうしているでしょうね・・・」
「あの人?」


娘が窓から街の様子を見ながら訊ねた。


「そう、あの人。ヴィスウィル達をあんなひねくれるまで育ててくれた張本人」
「ああ・・・あのアホか・・・生きているだろう。あいつが死ぬ時は世界が滅びる時だ」
「・・・・そうね」




















































































覚悟も決まっていた。心の準備もできていた。思い出も充分振り返った。
思い残すことはたくさんあったが、それでもこれが運命なら仕方ない、とそう思っていたのに。
何故か自分はまだ川にも花畑にも着かなかった。


「!!」
「・・・・・うそ・・・・・・」


突然青白い光が発せられたかと思うと、シヴィルに襲い掛かろうとしていた男の剣は遠くに弾き飛ばされていた。何が起こったのか、誰にも理解できていない。当の本人も目を見開いて固まったままだ。
麗を掴んでいた男なんか思わず手を緩めてしまっている。それでも麗は逃げる考えを持ち合わせるほど今は頭が働かない。


「何が・・・起こった・・・?」


野次馬もしんと静まり返っている。
その中から凛と響き渡る声がした。





























「それくらいにしといてくんねぇか?俺があのクソ弟子に怒られちまうもんで」


野次馬を割ってでてきたのはさらりとした顔の好青年。めんどくさそうに歩いてくる姿はただのニートのようだ。


「何だお前・・・・?」
「何だっていいからそいつら返せ。もう用事終わったからさっさと帰るんだよ」
「てめぇっ!!」


剣を弾き飛ばされた男は、自慢の拳で青年に殴りかかった。でかい図体の割に速い。














だが、拳が届く寸前で目の前にすっと人差し指を出された。


「っ!」
「・・・・・・・・イス・・・・・・」





















その瞬間、男の動きは止まってしまった。顔だけがひくひくと動いている。


「な・・・・っ・・・な・・・っ」


そして、こん、と小突くと、その場にドサリと崩れ落ちてしまった。
それでも男は襲い掛かる直前の格好のまま動けないでいる。



































「・・・・・・・・・師匠・・・」


シヴィルが片目をあけて映った人物を口にする。
彼はいたのか、と今気付いたようにシヴィルを見下ろした。


「お前、いつからそんな弱くなったんだ。そんな子に育てた覚えはありません!」
「本当にあの日々が夢だったらよかったけどな」


さっきの死ぬかもしれない状況の時より、遠い目をしている。生き地獄より死ぬほうが楽なのだろう。





















「イヴァンさん・・・・・」
「っ!何・・・っ」


麗が思わず口にしてしまった名前に、後ろで男が息を飲んだ。血の気が引いてしまって、真っ青になってしまった。


「へ?・・・ちょ・・・っと・・・・大丈夫?おーい・・・」


目の前で手を振っても反応なしだ。ただ、転がった少年と会話をしている男を凝視して目を離さない。
そのうち、がたがたを震えだしてしまった。


「あの・・・・ねぇ、大丈夫ですかー・・・」
「イヴァン・・・・だと・・・?」


その様子に麗は人質だったことも忘れて心配してしまった。
そうしている間にもシヴィルとイヴァンはまったく関係ない話を繰り広げている。いや、話というか、言い争いか。野次馬もそれを見て、いつ殴り合いになるかとひやひやしているようだ。


「あのなぁ、だかられは愛ゆえにだ!」
「あんたが愛とか言うな。誰も使えなくなる!」
「お前、一生ここで転がっとくか?雨ざらしになっとくか?」
「もーやめなよ二人ともー・・・」


男の元から離れて、麗が戻ってくる。結局何しても男は反応してくれなかったからだ。


「あれ、お前戻ったのか。じゃ、帰るぞ」






















呑気に会話を続けていると、後ろの方から唸り声が聞こえてきた。
見ると完全に放置されていたもう一人の男がイヴァンに剣を向けて襲い掛かってくる。


「っ!あと一人いたんだった!」


かわいそうに忘れられていた男は、目にも止まらぬ速さで距離を縮めてくる。
そして、いつ拾ったのか、イヴァンの手には倒れている男の剣が握られていた。


「ちょっ・・・・・シヴィル!イヴァンさん大丈夫なの?!魔法がすごいのは知ってるけど、剣なんて・・・・っ」



































「寝言は寝て言え。師匠は魔法より数倍剣の方が強い」










































「―――――――・・・・え?」


































































そこで麗を掴んでいた男がはっと我に返り、イヴァンに襲い掛かろうとしている仲間を見た。


「っ!!!!おいやめろ!!お前じゃ半秒もたねぇ!!」


聞こえていないのか、止まる様子はない。


































































「やめとけ!!!!そいつは――――・・・っそいつは、イヴァン=アイス=ベルグだ!!」



































気付いた時にはもう遅かった。







後書き
やっとイヴァンの実力発揮。
これが書きたいがためにこの回の話を書いたなんて言えない言えない。
イヴァンとヴィスウィルシヴィル兄弟の会話は書いてておもしろい。
会話集作ろうかしら(親ばか)

20090710