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キィンと甲高い音が響いた。














































「シヴィ・・・!!・・・・・・・シヴィル・・・・?」


彼では絶対にやられると思った麗は逃げろとばかりに彼の名を呼ぼうとした。だが、その状況は予想していたものと違っていて。


























「剣が使えるのか、奇遇だな」


男の言葉を繰り返したシヴィルはもう、ヴィスウィルの弟、ではなかった。
二人の剣を一つの剣で受け止めている。一つは刃で、一つは柄で。


「てめぇ・・・」


予想になかったシヴィルの強さに男達はさらに怒りが増す。このさして大きくない体に簡単に受け止められている。力ではない、テクニックだ。それも分からない力自慢の男達はこんな子どもに、と低くうめいた。
はっと二つの剣を退けるシヴィルに、二人の男はさっと後ろへ下がった。


「一万人以上分の強さの奴に毎日殺されかかってたんだ。今更二人ごときにやられるか」


相変わらず男達の威圧に負けているシヴィルだが、実力は確実に上だ。それを男達も認めたのか、麗の首をその太い腕でぐっと締め上げた。息が詰まる。


「っ!」
「レイ!」
「この首へし折られたくなかったらじっとしてろ!」
「っく・・・」


野次馬もざわ、となった。男達に聞こえないよう、酷い、と言っているようだ。あまり小さな声ではないが、男達も頭に血が上って聞こえていないらしい。


「さあ、ショーの始まりだ」


二人の男は再びシヴィルに斬りかかる。


「シヴィ・・・ル・・・」
















































































「ん・・・・・」


額に冷たいものを感じてリールは目をそっと開けた。傍らには端正な顔。


「・・・ヴィスウィル様・・・・・付いててくださったんですか・・・?」
「・・・・・・」


無言の肯定。
額に感じた冷たいものはヴィスウィルが置いたタオルだった。めったにない二人っきりの空間に、リールは胸を鳴らす。普段アピールしまくっている勇気はこんなところで役に立たない。


「・・・・ヴィスウィル様・・・私、ごめんなさい、迷惑かけてしまって・・・・寝込んでいる場合じゃないのに・・・」
「謝ることじゃない」
「え・・・・・」
「もし謝ることがあるなら相手は俺じゃない。俺は謝る方だ」
「どうしてヴィスウィル様が・・・」
「全て俺の責任だから・・・」


リールが寝込んでいるのも、イヴァンに無理をさせているのも、麗に記憶がないのも、全て。
最初から一人で旅すれば良かったのか。いや、そうは思わない。そうじゃなければ自分はここまでたどり着いていないはずだ。心が折れて立ち止まったまま、一歩も前に進めないはずだ。
こんなに助けてもらっているのに、自分は・・・・・・

























「・・・・・すまない・・・・・」


























「ヴィスウィル様・・・・・」


初めてヴィスウィルの口から聞いた謝罪の言葉をリールは辛そうに聞いていた。こんな顔をさせるつもりじゃなかったはずなのに。
























「変わりましたね、ヴィスウィル様・・・」
「・・・・変わった?」


少し赤らんだ頬が緩んでリールの顔に笑みがこぼれる。


「ええ、昔のヴィスウィル様は氷をまとったような方でしたのに、今はその氷が半分以上溶けてしまっているようですわ」


それがいいことなのか、悪いことなのかは分からない。だがきっと、それを溶かしたのは誰もが口を揃えて言うだろう。


「不思議な人ですのね、レイって・・・・」
「・・・・・・・」


それだけ言うと、リールは再び目を閉じて寝息を立てだした。
















































「もう終わりか?おい」


男は転がったシヴィルをさらに蹴って転がす。うめくシヴィルは切り傷や打撲でボロボロになり、荒い息を繰り返していた。


「シヴィル!!――っちょっと!やめてよもう!シヴィルは関係ないでしょ!!やるなら私をやりなさいよ!」


男らしい発言に男達はくくく、と笑う。


「そう焦るな。姉ちゃんは後からだ。こいつを始末した後でたっぷり可愛がってやるから心配するな」
「セリフが古臭いのよ、カス!」


シヴィルの姿に相当頭にきている麗はヒロインの立場を完全に放棄している。元々、こなせてもいないが。


「・・・・っ・・・やめろ、レイ・・・・こいつら逆上するだけ・・・だ・・・」
「黙ってろ!」
「ぐっ!」
「っシヴィル!」


再び蹴られたシヴィルは今にも意識を手放しそうだ。


「そろそろとどめをさしてやるよ。苦しそうでかわいそうで仕方ない・・・」


近くにいた方の男が口元を歪ませ、剣を強く握った。太陽の光に反射して、刃がキラリと光る。
シヴィルはもう、逃げる気力もないようだ。ただじっと、剣が振り下ろされるのを待つだけ。































そして――――・・・・・

































「じゃーな・・・」
「シヴィル―――――――!!」


死んでしまっても、ヴィスウィルに怒られるのだろうか。彼はこの上なく彼女を大切にしているから。
結局、追いつかないまま終わってしまう。









































剣は振り下ろされ、野次馬から悲鳴が上がった。












後書き
徐々に更新スピードを取り戻しつつあります。
今日は学校サボってまで更新しました!偉い!(本末転倒)
20090701