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「今、何て・・・?」


































「耳が遠いのかお前。ヴィスウィルには解除できない魔法だ」
「じゃ、じゃあイヴァンさんにならできるんですか?」
「・・・・・いや、俺にも無理だ」
「・・・なん・・っ」


イヴァンにもできないというのなら他の三人にできるはずもない。麗はそれ以上声がでなかった。
このまま、この横の綺麗な青年のことを忘れたままなのだろうか。
どうしてだろう。どうしてこんなにも思い出さないといけないという衝動に駆られているのだろうか。その意味も知りたい。自分はどんなに大事なことを忘れているのだろうか。


「ルーン魔法は自分の魔力をルーンに注ぎ、別の系統の魔法として使えるようにするものだ。そしてそのスルクってやつはお前にルーンを使ったんだ。自分の魔法をCis(ツィス【木】)の魔法に変えて」
「――っくそ!やっぱりか!!」


ダン!とシヴィルがテーブルを叩いた。リールは呆然とし、ロリィは目に涙を浮かべている。


「だからどゆこと?」
「いいか?解除魔法が使えるのは俺、ヴィスウィル、シヴィルの三人だ」


そう話し始めたイヴァンの話は難しすぎてあまり頭に入らなかった。とにかく、分かったことは解除魔法が使えるイヴァン、ヴィスウィル、シヴィルの持つ要素はそれぞれ、イヴァンはAis(アイス【光】)、Gis(ギス【水】)、His(ハイス【明】)、ヴィスウィルはFis(フィス【氷】)、Gis(ギス【水】)、Cis(ツィス【木】)、シヴィルがFis(フィス【氷】)、Eis(エイス【風】)、Gis(ギス【水】)だ。ところが、スルクのかけたルーン魔法はCis(ツィス【木】)である。
魔法は本来、使い主の魔力がほぼ同じであればその者の系統で魔法の優劣がつく。おそらくスルクはヴィスウィルと同じくらいか、少し上くらいの魔力だ。ヴィスウィルやシヴィルの系統であるFis(フィス【氷】)はCis(ツィス【木】)より弱い。さらにイヴァンはスルクより魔力は上だろうが、イヴァンの系統、Ais(アイス【光】)とCis(ツィス【木】)ではCis(ツィス【木】)の方が数倍強いのだ。魔力の強さで補えないくらいに。それどころか、Ais(アイス【光】)の魔法はCis(ツィス【木】)の魔法を増力してしまう。使ったところで麗の記憶が戻ることはまずないだろう。


「こっちもルーン魔法を使えばいいんじゃないの?その、Cis(ツィス【木】)の魔法に強い魔法のやつで・・・」
「・・・まあ、考えはいいんだが、ルーン魔法はかけることはできてもルーン魔法で魔法解除はできない」


それは元々、ルーン自体に魔力はないからだとかどうとか言っていたが、麗には理解できなかった。


「それじゃ・・・私はずっとこのまま・・・・?」


知らない、この白い青年が自分にとってどんな存在か。知らないけど、少なくとも彼は自分のためにここへ来てくれたり、悩んでくれたり、一緒に歩いてくれたり、それから、ただ一人、ウララと呼んでくれる。ちゃんと訊かなかったけど、きっとそれには意味があるんだろう。だからだろうか、どうしても思い出したい。思い出さなければ決して元の世界に戻れない気もしたのだ。
記憶がどこかで助けを呼んでいる。




















「じゃあ、治癒魔法ではだめなんでしょうか?」


目に溜めた涙を落とさないよう、必死に耐えながらロリィが顔を上げた。


「だめだな。治癒魔法は魔法にさらに強い魔法をかけて魔法を押さえ込むもので、怪我なんかの時に使うものだ。今のこいつにはきかねーよ」


それを聞いて、ロリィが再び俯いた。もう耐え切れる自信がなかったのかもしれない。
治癒魔法はいわば魔法で魔法を抑えるのだ。だからこそ高い魔力が必要である。





























「その魔法を解除するとしたらただ一つ―――・・・」




























「――――――――・・・・は?」
















「なんだ」
「あるんですの?!方法!!」
「ないとは言ってねぇだろ」
「・・・・・・・・くそ師匠・・・」
「ん?何か言ったかな、シヴィルくん。くそ師匠、よく聞こえなかったなぁー」


にこにこしながらイヴァンはシヴィルを締め上げる。みるみるうちにシヴィルの顔色は青くなっていった。


「その方法というのは?」


ヴィスウィルが一人、冷静に聞き返した。
イヴァンは少しためると、ビシッと一人を指した。


「・・・・・私?」


男性特有の節のある指の先が示しているのはリールだった。当の本人は訳が分からず、きょとんとしている。


「私が何なんですの?」
「お前になら魔法解除をできるかもしれない」
「なん・・・っ・・・私は解除魔法は知りませんよ?!」
「んなこと知ってる。俺が教えてやるっつってんだよ」
「な、なら兄貴か俺がやった方が・・・」
「あほか」


イヴァンは一喝した。
彼が言うにはこうだ。Cis(ツィス【木】)に強い魔法はDis(ディス【火】)である。だがこの中にディス系の者はいない。基本、ルーンを使わなければ自分の系統の魔法しか使えないのだ。
では、どうするのか。リールももちろん、フィス系である。ただ、他の五人と違っていたのはDis(ディス【火】)の要素を持つ、ということだった。


「だからといって、リールの系統はFis(フィス【氷】)です。Dis(ディス【火】)の魔法を使うには無理があります」
「んなことやってみなきゃ分かんねーだろ。実際俺は使える」
「それは師匠だからでしょう!」


この人がどれだけの人物かはよく知っている。この人のものさしで一般人を測ってもらっては困るのだ。レベルが違いすぎる。


「他に方法はない。やるか?」


イヴァンはリールだけに訊いた。
リールは思わず押し黙る。
スルクはきっと、ヴィスウィルやシヴィルの持つ要素を知っていて、Cis(ツィス【木】)の魔法をかけたのだろう。だがリールまでは知らなかったはずだ。



























「仮にお前がDis(ディス【火】)の解除魔法を覚えたとしても成功する確率は50%だ」
「っ!どうしてですか!!」
「当たり前だろ。こいつとスルクって奴じゃ魔力が違いすぎる」


要素の優劣で補えるかは五分五分なのだ。

















「・・・・・・・・・・・・」


















「どうだ。やるなら確実に覚えさせてやる」
「・・・・・・・・・・・・・」



























リールはすっと麗を見た。
何故だ。何故自分はこんなにこの人のために苦労してやろうと思っている?最初はそんなこと思わなかったはずだ。ヴィスウィルの元から一刻も早く遠ざけたかったはずだ。今、絶好のチャンスではないか。



















































「やりますわ」






















































だが、リールの出した答えは自分の意思に反するものだった。だが、迷いも怯えもない、真っ直ぐな声。











































「わかった。本来一ヶ月かかる修行を一週間でやる。血を吐く思いだぞ」
「・・・・・・・ええ」


ヴィスウィルとシヴィルがぴく、と反応した。イヴァンの言葉が例えでないことを知っているのだ。
この人の"きつい"はそれ以上だ。






後書き
昨日頑張ってストックをためました!
といっても前ほどではないのでまた今晩ためようかしら。
どうでもいいけどこれ、英語(?)が多すぎてなんて分かりにくい小説になってるんだ・・・
括弧書きでめっちゃ時間くってるよ・・・
いっそカタカナだけにしちゃおうかしら。
20090301