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「異世界から?」
「地球というところから・・・」
「へぇ、そう」
「あれ?」
「何だよ?」
あまりの反応の薄さに五人はイヴァンを見たまま固まっている。それに気づいてか、イヴァンは怪訝そうな顔で見返した。
「驚かないんですか?」
今まで話した人では、信じる信じないは別として、聞いたら必ず目を見開いて驚いていた。それなのにこの晩御飯ができたことを奥さんから言われたような反応は初めてだ。
そして、イヴァンの代わりに驚いたのは・・・
「そうだったんですの?!」
「あれ?!」
リールであった。
いろいろなことが一度にあって、まだリールには話していなかったのだ。というより、普通に話に入り込んでいたのでもう気づいていると全員が思っていたのだ。
「何かおかしいと思って、疑ってはいましたが・・・」
「いや、マリスの家に行った時の話で気づけ」
「だって、ただ国が違うだけだと思っていたんです!でもまさか、そんな宇宙規模の話だったなんて・・・」
「宇宙規模だなんて、そんな・・・・って否定できないのがなんか悔しい」
「実際宇宙規模で間に合ってねぇもんな」
空間を越えているのだから。
その様子をイヴァンはケラケラと笑っていた。リールは変わってねぇな、と。どうやら麗以外の四人はこの男と顔なじみらしい。
「イヴァン様はどうしてそんなに平然としてらっしゃるんですか!!」
「どうしてって・・・そりゃあ、俺ぁ前にも似たような奴を見たことあるしな」
「!!」
マリスの家での会話がよみがえった。
確かマリスの話ではそいつは戦争で死んだはずだ。そして、今はもういない。
「だが、マリスの話ではそいつはもう・・・」
「ああ、いないよ。ここには、な」
「ここには?」
妙に含みのある言い方に、じれったそうにヴィスウィルが眉を寄せる。ここにはいないということは、どこかにまだ生きているというのだろうか。まさか天国とでもいうのだろうか。だったら殴りたい。
「確かに一人は死んだ。戦争でな」
「まさか、師匠は他にも異世界から来た者を知っているというのですか」
「ああ」
「!」
イヴァンは隠す様子もなく、即答した。そして、その目は麗を向いている。
「そのこと、オヤジは・・・」
シヴィルが精一杯驚きを隠して問う。
「知らんだろうな」
さも当然のように答えた。
こんなことがあってよいのだろうか。一国を担う王が世界の事情を把握していないことなど。何もシヴァナに非があるわけではない。むしろ知っていたらそれはそれでやっかいなことになる。歴史が塗り替えられるのだから。
「どうして・・・」
「俺が情報を止めた。だからあのマリスでも知らなかったんだろ」
マリスは医者であると同時に、頭が良かったため、世界の事情をあらゆる形で把握していた。それも、シヴァナ以上に。
「それで、もう一人というのは・・」
「教えられんな」
「なっ・・・んで・・・」
少し光が見えた希望に、再び影が落ちた。
麗は落ち込みを隠しきれない。
「何ででもだ。一つ、教えられることといったら、そいつはお前の住む世界の人間ではない」
「!」
「それって・・・」
「また違う別の世界からきた、ということか・・・・?」
麗はたまたま地球からであるが、地球以外にもこのカシオのような星があるのだとすれば、そこからとんできてもおかしくない。
「ま、俺が喋れることはこれが限界だな。それより、お前ら今日はそれが用事じゃなかったんだろ」
「そ、そうですわ!」
「あ、あの、実はイヴァン様にお願いがあってきたのです」
このような話の前置き役はロリィが一番ふさわしい。ロリィにならお願いされてもいいような気がするからだ。
ふんわりとした雰囲気に、この大きなマリンブルーの瞳に上目遣い(不本意)されたら誰だってたじろぐだろう。性別関係なく、だ。
「お願いの内容によるが」
「レイの・・・・魔法を解除してほしいんです」
「魔法解除?」
思わず立ち上がってしまったシヴィルを、イヴァンは冷静に見返した。
「どういうことだ。魔法解除もできなくなってんのか、ヴィスウィル王子は」
そしてその目をヴィスウィルに向けた。
その視線に気づいたヴィスウィルは外に向けていた顔を中へと戻す。その目にはいろいろなものが宿っていた。
そしてイヴァンも、ああそうか、と深いため息をついた。
こいつがちょっとやそっとの問題で自分を訪ねてくるはずがない。昔から何があっても我関せずのくせして自我が強く、プライドは屋根よりこいのぼりより高い。自分を訪ねてくるくらいなら苦労してでも自分で何とかする、そんな奴だ。何よりこいつは自分を嫌っている。何年も一緒に過ごした日々はそのくらいのことは軽く教えてくれる。だからだろうか、今ほどヴィスウィルが自分を必要としている時はないように思えた。
「―――・・・ったく、お前・・・本当調子いい奴だよな、昔から」
「それは師匠ゆずりです」
「ゆずった覚えはねぇ」
「そういう問題ではないでしょう」
「いやそういう問題だ」
「あのー・・・・・・・話戻しますよ勝手に」
また口論が始まると思った麗は早めに口を挟んだ。
「イヴァン様、スルク、というキル族をご存知ですか」
「・・・・スルク・・・?」
ロリィの言葉に初めて聞いたような顔をするイヴァン。きっと知らないのだ。
「源玉を狙い、ヒールの手下です。恐ろしく強い。兄貴と互角、もしくはそれ以上だ」
「・・・・ヒール、ねぇ・・・」
あまり興味なさそうにその名前をつぶやいた。これはおそらく、よく知っているのだろう。まるで古い友人を思い出すような口ぶりだ。
麗はまだその名前の人物がどんなものであるか分かっていないが、今ここでそれを訊いても、いつまでたっても本題が切り出せない、と口をつぐんだ。
「そのスルクがウララに魔法をかけたらしいのですが、それが何の魔法か分からず、師匠のところに・・・」
「・・・・症状は」
ヴィスウィルには魔法解除のやり方は教えたはずだ。自分よりは劣るとはいえ、才能のあるこいつができないのであれば、きっとかかっている魔法が分からないのだと瞬時に判断した。
イヴァンは椅子から立ち上がって麗に近づいてくる。
「・・・・ヴィスウィル様のことだけ、記憶がありませんわ」
「!」
一瞬止まってしまった足を再び進め、麗の前でかがんだ。
「手を」
「え、あ、は、はい!」
長い指の手の上に麗は自分の手を置いた。なんだか手をとられるお姫様みたいで恥ずかしい。
「ちょっといい気持ちはしねーからな。我慢しろよ」
「――――っ!!」
そう言ってイヴァンは目を閉じて神経を集中させた。
麗は何か自分の中でいろいろとかき回されているような気持ち悪さを覚え、顔をしかめた。
イヴァンは麗にかけられている魔法を割り出していた。
こんな芸当ができるのはイヴァン、それからマリスぐらいだろう。魔力は大して使わないが、その人の精神、要素を壊してしまう恐れがかなりの確立であるため、相当な技術がいる。
マリスは元々優秀な医者だ。それくらいのことはお手のものなのだろうが、他にできるものは、このイヴァンしかいない。
「――――――・・・なるほどな」
唐突につぶやいて、イヴァンはその場を立ち、元の席へ戻った。
「―――っ・・・」
「ウララ」
椅子から落ちそうになった麗をヴィスウィルが静かに支えた。
「――っはぁ・・・はぁ・・・あー吐きそうだったー・・・」
ヒロインらしくない声を出し、口元を押さえる。
「それで、レイ様にかけられた魔法は・・・・」
「――――――――――・・・・オースィラだ」
「!!」
「そ・・・・んな・・・」
ロリィが顔色を青くして、床に座り込んだ。
他の三人も驚きを隠せない様子で息を震わせていた。動じていないのはイヴァンと、何も知らない麗だけ。
「へ?な、何、オーなんとかがどうしたの?」
「オースィラ・・・変化、喪失、獲得などの意味がある、北欧神主神オーディンが拾い上げた最後のルーンであり、彼自身を意味するものであるルーン魔法がお前にかけられている」
「そ、それが?」
だれも答えないので仕方なくイヴァンが喋っている。
ヴィスウィルが横で舌打ちをした気がした。
「ヴィスウィルには解除できない」
「―――――――・・・・・・・え・・・・?」
知らない方が良かったのだろうか。
後書き
よかった、前回あそこで切っておいて・・・!
恐ろしく長くなってしまった・・・
スクロール的にも文的にもなーがい・・・
なんかいろいろなことを詰め込みすぎた感がある。
でもきっと次回はもっと詰め込むよ!(反省しろ)
20090228
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