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「わあ、湿っぽーい!どこここー!」
声に色は十分あるのに、覇気を感じないのは何故だろう。ヒロインらしくない、と周りが責めなかったのも無理はない。彼らも責める余裕などなく、また、麗がもう演技でもそれっぽく言うことができないくらい極限状態まで追い込まれているのを知っていたからだ。
「・・・さ、さすがに応えたな・・・一日半走りっぱなし・・・」
「・・・もうダメ・・・手相が十本くらい増えそうですわ・・・」
「疲れましたね」
ヴィスウィル以外はもう疲弊しきっている。
それもそうだ。あれから殆ど休憩、睡眠をとらず、ここまでやってきたのだ。ヴィスウィルの後ろに乗っていただけの麗も、腰が、腰が、と訴えている。
そうして辿りついた先は妙にじめじめとした森の中だった。別に暗いというほどでもないのだが、とても鳥のさえずりなど聴こえてきそうにもない。
「なんでこんなに急いだのよ?居場所分かってんならもう少しゆっくりでもよかったじゃない」
「全国どこでも毎日のように噂されている人が同じ場所にそう長く留まっていると思うか?」
「思いません・・・」
全国どこそこに出没するからこそあらゆるところで噂されているのだ。最も、約九割は本人がでっち上げた嘘によるものだ。きっとこの場所もヴィスウィルがどこかしらで手に入れた一番信憑性の高い噂なのだろう。
「あ、あれ・・・」
ロリィがそう言って指差した先には一軒の小さな小屋らしきものが建っていた。ボロく、雨風を遮るとは思えないものだった。
「あそこだな。行ってみようぜ・・・」
「あれ、お前もしかしてシヴィルか?」
「え?」
いざ行こうとした矢先、後ろから声が聞こえてきた。その声の主を確認する前に、もっと重要なことがあった。
「ってことは、その隣はヴィスウィルか?あ、そこあぶねーぞー」
「・・・・っぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
麗が振り返った途端、影が落ちてきたと思えば数十メートルある大木がヴィスウィルと麗の方へ倒れこんできているところだったのだ。
「レイ様!」
ロリィが叫ぶと同時に、大木がダァン!と地面を打った。
「ちょっ・・・レイ!大丈夫か?!」
砂埃の中から二人の姿を探すが、見えてきたのは麗と、もう一人はヴィスウィルではなく、違う人物だった。
「けほっこほっ・・・大・・・丈夫・・・何なのよ、一体」
「ごめんなー。女の子がいるとは思わなくて」
「へ?」
確実に自分達の方へ来ていた大木は微妙に右にずれていた。どうやら木がずれたのではなく、麗が左にずれたらしい。
びっくりして何がなんだか分からなかったが、上から降ってきた声に顔を上げると、そこには笑いながらも申し訳なさそうにする端正な顔があった。ヴィスウィル達とは違うタイプの好青年的なかっこよさ。思わずドキ、としてしまった。
彼によって大木が倒され、また彼によって助けられたのは言うまでもない。
「あなたは・・・」
「あ、俺?俺は・・・」
と、ガコ、と今だ立つ砂埃の中からちらっと人影が見えた。助けたのは麗だけであって決してヴィスウィルは助けなかったため、見事に木の下敷きになったヴィスウィルだった。
「お!久しぶりだな、ヴィスウィル!あ、大丈夫だったか、嬢ちゃん」
「あ、はい!ありがとうございます」
「・・・・・初対面の人間の心配をして、弟子の心配はしないんですか師匠」
ヴィスウィルは男の目の前まできて彼を見下ろした。それを見て、見下ろされるのが気に障ったのか、彼は立ってヴィスウィルと同じ目線になる。
「俺が?お前を?へー、言ってる意味が分かんなーい」
「まぁされたところで迷惑ですけど」
「安心しろ。そんなことするくらいなら鳩に餌やってた方が何億倍も生きる活力が湧いてくるわ」
「じゃあ一生やってればいいじゃないですか。その姿が一番似合ってますよ」
「バカ言え。俺が一番輝いてるのは風呂に入っているときだ!」
あまりお目にかかれない時だ。
しばらく二人の言い合いに口を開けてみていた麗だが、はっと気が付いて、遅れた驚きの声をあげる。
「・・・っ!ヴィ・・・ヴィスが敬語・・・!!」
「レイ、驚くところはそこじゃありませんわ」
男の正体がヴィスウィル兄弟の師匠、イヴァン=アイス=ベルクだということよりも、ヴィスウィルが公の場のシヴァナやカティに対して以外で敬語を使わないと聞いていたので、そっちのことの方が麗にとって驚くべきことだったらしい。
後書き
ちょ、すいません。恐ろしく短くて。
ここで切らなければ次回長くなりそうだったので。
またこれから続き書きますよ。
だいぶ更新してなかったのでたまには、ね。
20090228
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