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「それじゃ、ありがと。クラウス」
「あ、はい!こちらこそ!!」


写真をすぐに現像してもらい、麗たちはクラウスの店を出ることにした。本当は代金がかかるはずだが、クラウスの厚意で無料にしてもらった。クラウス自身も楽しかったからだ、と彼は言っていたが、その通り、麗たちの写真をとる姿はキラキラしていた。


「あ、そういえばヴィスウィル様」


思い出したようにクラウスは見送る玄関口でヴィスウィルを呼び止めた。


「イヴァン様が先日お亡くなりになったと聞いたんですが・・・」
「・・・・そうか」
「?」


聞いたことのない名前に麗は首をひねる。二人の共通の知り合いだろうか。それにしては死んだというのにヴィスウィルの反応が薄すぎる。いや、ヴィスウィルだからこそ普通なのか。


「噂で聞いただけなので本当かどうか分からないのですが・・・」
「分かった」


それだけ言うと、ヴィスウィルはさっさと歩いていってしまった。
それを見て、麗があっと声をあげ、クラウスに別れを告げる。


「それじゃ、クラウス、行くね!またどこかで会おうね!」
「はい!」


手を振りながらヴィスウィルを追いかけた。すでに数十メートル先の人ごみに埋もれていて、その輝く銀髪がなければ見失っていたところだろう。


「ちょっとヴィス、待ってよ。イヴァンって誰?」
「お前には関係ない」
「かんけっ・・・ないけど・・・気になるじゃない」
「気にするな」
「あーいえばこう言う奴ね・・・」
「知ってどうす・・・・っ!」


わずかに見開かれた碧眼が光を宿した。


「な、何?」
「帰るぞ」


ヴィスウィルは思い立ったようにいつもより早足で宿へ引き返した。麗は小走りでそれについていくのがやっとだ。まだやりたいことがたくさんあるのに、と思いながら、ヴィスウィルの表情が何かしら焦っているようにも見えたので何も言わずについていった。

























































気がつけば十五分かけて歩いた道のりをわずか五分で辿っていった。周りにはどう見ても競歩だと思われていただろう。この世界でそんな競技があればの話だが。


「はぁ・・・はぁ・・・ヴィス、あんた私が病み上がりだって知ってる?」
「いつの話だ」
「今日よ!!」


正確に言えば昨日から今日にかけてだ。昨日はオレジンからの帰りでへばっていて、今日はスルクから魔法をかけられたあとだ。
ロリィが慌てて持ってきた水をお礼を言ってから一気に飲み干す。風呂上りのおっさんのようだ。


「ところでどうしたんだよ、そんなに慌てて帰ってきて。ピーでももれそうだったのか」
「シヴィル、喋れなくなるまで口をひねりつぶしてやりましょうか?」
「スミマセン・・・」


そういいながらもしっかり襟元を掴んで放そうとはしない麗から目線をはずしてシヴィルは冷や汗を流した。


「すぐ出る。支度しろ」
「へ?」


短く言い放ってヴィスウィルは上着を羽織った。周りが驚いているのをよそに、自分だけさっさと準備を始める。といっても、剣を身に付けるくらいなのだが。


「ヴィスウィル様?一体どこへ?まさかもうオレジンへ向かわれるのですか?」


優雅にお茶を楽しんでいたリールも手を止め、ヴィスウィルの急な発案に驚きを隠せずにいる。
あと二日ほどはゆっくりとここで休養をとると思っていたのだから。


「いや・・・イヴァン=アイス=ベルクに会いに行く」
「・・・っ・・・イヴァン様に・・?!」


麗以外の三人が悲鳴に近い驚きの声をあげた。麗は麗で何故三人ともイヴァンとやらの名前を知っているのかと悩んでいた。というか、さっき死んだとか言ってなかったか。まさか墓参りとか言うんじゃないだろうな、と疑っていると、思い出したようにシヴィルが口を開く。


「でもあいつ、去年死んだとか言ってなかったか?」
「え?!私は一昨年亡くなったと聞きましたわよ?!」
「私は先日・・・」


もしかしてイヴァンとは人間ではないのかもしれない。きっとそうだ。


「俺はさっき聞いた」
「相変わらず没年が分からねー奴だな・・・」
「あのー・・・」


話に入り込めない麗が控えめに挙手して発言する。


「イヴァン・・・さん?て何者?人間?人魚の肉でも食べたことあるの?」
「人魚?何だそれ」


いや、ほら、人魚の肉を食べたら不老不死になれるという伝説が、とは言い出せなかった。あくまで地球での話だ。人魚がいるかどうかも疑わしいというのに。


「イヴァンはオレ達の師匠だよ」
「はい?」
「いや、だからオレと兄貴の師匠」
「師匠?!そんなのいたの?」


てっきり父親に魔法なんかを教えてもらっていたと思い込んでいた麗は意外な身元に開いた口がふさがらない。そしてヴィスウィルに師匠なんて恐ろしく似合わない。何故だろう、と考えてみたが、答えはすぐに出た。彼がいつも上から目線だからだ。


「まあな。でも何故かいつものように"死んだ"っていう噂があいつを知っている奴らの中じゃあってさ。本当に生きているかどうか分かったもんじゃねーよ」
「でも必ず生きてらっしゃるんですけどね」


シヴィルはため息をつき、ロリィは、はは、と苦笑いをする。
最初は死んだと聞いて驚きもしただろうが、こう何度も死んでは生き返り(死んでない)死んでは生き返り(決して死んでない)していると慣れてくるのであろう。
それに――――・・・


「あの人が簡単に死んでくれたら世界はもっと平和だろうな」


ヴィスウィルがこういうのだから間違いない。


「それで?そのいつ死んだか分からない人に何のために会いに行くのよ?」
「お前に関係ない」
「はい?!」


まさかいまから行くところに訳も分からずついていけというのだろうか。
何か知らないが、さっきからヴィスウィルが麗に対して冷たいような気もしていた。いや、出会ったころの彼とは確かに変わらないが。少なくともロリィ、シヴィル、リールにはそう感じさせていた。


「―――ってまさか、スルクの魔法解除をイヴァンに頼みに行くのか?!まじでか?!」
「ああ」
「関係なくないじゃない!!」


むしろ麗が一番関係ある。
シヴィルはそれを聞いてさらに慌てたようだ。本当にイヴァンの正体が分からなくなってきた。


「分かったらさっさと準備しろ。明日の夜までには着くようにしたい」
「何、そんなに近いの?」
「二つ先の国だ」
「・・・・・・もう今昼過ぎだよ?一日半で二国は無・・・」
「行く」
「・・・・・・」


もう頑固とかいうレベルではない。絶対人の意見を聞き入れない物言いだ。嘘だろ、と思いながらも自分のために寄り道をしてくれているのだから仕方なく黙ってついていくしかなかった麗であった。








後書き
あれ、返上できた?
ちょ、櫻井ラジオ(なんだそれ)聞きながら書いてるから間違ってるところいっぱいかも。
次回イヴァン登場です。
20090131