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葬儀が終わり、参列者は散らばっていった。
シヴィルは兄の姿を探すが、見当たらない。代わりにまだ涙が残る眼をしたロリィを見つけた。


「―――ロリィ、兄貴は?」
「・・・シヴィル様・・・ヴィスウィル様は多分、あの丘だと思います」
「―――・・・やっぱりか。―ったく、怪我も治ってねぇのに・・・」


シヴィルは丘に向かおうと方向を変えた。進もうとした瞬間に細い腕で手首をつかまれる。


「!」
「・・・シヴィル様。もう少しヴィスウィル様をあのままでいさせてあげて下さい」
「・・・ロリィ・・・」


シヴィルもそうしてあげたいのは山々だった。だが、ヴィスウィルは戦いの後、最も酷い怪我で帰ってきて、2週間生死をさ迷ったのだ。そして、昨日やっと意識を取り戻したばかりだというのに、目覚めを待っていたのは信じがたい事実。


「・・・オレも、そうしてあげてーけど、このままじゃ本当に死ぬぜ、あいつ」
「・・・・・・」


ロリィは何も言えなくなり、ゆっくりとシヴィルをつかむ手を放した。それを確認すると、シヴィルは丘に向かった。































































「―――――――・・・ヴィス・・・っそんなこと・・・っ!」
「俺が指示を出したんだ。俺が殺したも同然だ」
「・・・っ!」


何も、何も言えなかった。
確かにヴィスウィルの言うこともその通りであって、否定はできない。それに、ヴィスウィルの気持ちもよく分かっていないくせに、めったなことは言えない。でも、ここで何か言わないといけないと麗は言葉を探す。


「・・・あそこで、要素を取り込むよう、兄貴が指示を出さなかったらルティは助かったのかもしれないが、絶対に誰かが犠牲になってた」


どっちにしろ、誰かが消えていた。いや、きっとヴィスウィルのとった行動は最善であり、一番犠牲の少ない方法だったのだ。
だが、ヴィスウィルにとってルティナは1人分の犠牲だとは思えなかった。
それほど大きくて。


「・・・・・・ヴィス・・・・」


麗は結局何も言えず、異常に冷たい手をぎゅっと握った。片手では覆いきれず、もう片方の手も添える。
すこしぬくもりを感じた手に気がついて、ヴィスウィルがゆっくりと振り向いた。相変わらず無表情で仏頂面。射抜くようなその瞳と眼が合って、離せずにいた。
麗は自然に手に力がこもるのを感じた。


「・・・・・・お前がそんな顔をする必要はない」


そう言って、ヴィスウィルはもう片方の手で麗の髪をくしゃりとなでた。


「だって・・・」
「俺の問題だ。お前が悲しむことはない」
























違う、悲しんでいるんじゃない。そうじゃなくて・・・・
























「違うよ、ヴィス」
「・・・何が?」
「・・・・ルティナさんは全部分かってたはずだよ」
「・・・え?」
























悲しいんじゃないくて、ただ、ヴィスウィルに少しでも安心してもらいたくて・・・・






















「ルティナさんはきっと、最初から国のために要素を提供するつもりだったんじゃないかな」
「・・・・・・なん・・・っ」


















































ルティナは何かしたかった。


ヴィスウィルが国のために戦って、怪我をして帰ってくるたびにそう思った。有り余る魔力も使わなければ持ち腐れるだけ。ヴィスウィルが傷ついているのを見ているだけ、というのはどうしても耐えられなかった。
だから、何も言わなかった。
きっと言ったらヴィスウィルは要素を使うのを躊躇うから。そうしたら国民が、友達が、ヴィスウィルが、いなくなってしまう。そんなに大勢がいなくなるのなら、自分ひとりで済むほうが絶対いい。このことをヴィスウィルが知ったらきっと怒るだろう。だから、この想いは誰にも明かさずに。















































「・・・・・国民の・・・・ヴィスのためだったんだよ・・・」
「・・・・・・」
「なのに、ヴィスにそんなこと言われたらルティナさん、かわいそうだよ」


麗はいつの間にか、ヴィスの手を力いっぱい握り締めていた。今にも涙を落としそうな顔で、ぐっとこらえていた。
出会ってから、初めて見る表情だった。
見知らぬ環境にきて、恐ろしいことも心細いこともつらいこともあっただろうに、そんな素振りは見せなかった。なのに、他人のためにはこんな表情もするのだろうか。
それを見てか、シヴィルも思わず麗を見てしまっていた。


「・・・・レイ・・・」
「だから・・・っだからねっ・・・・っ」
「・・・・・・・」


麗は何か言いたかったのだが、これ以上何も言えなかった。
ヴィスウィルがどれだけ傷ついて、どこに傷があるかも知らなかったから。




















「・・・・っ!」


ヴィスウィルはもう1度、麗のやわらかい髪をくしゃりと握った。
思わず眼を閉じてしまった麗が次にヴィスウィルを見上げたときには、彼はいつもの仏頂面だった。


「だから、お前がそんな顔をする必要はねーよ」
「・・・・・・・・・そんな顔ってどんな顔よ・・・?」
「ブス顔」
「・・・・もう一回言ってみろ」
「アホ面」
「この手、原型とどめなくなるまで捻りつぶしてあげようか?」
「化け物にならできるんだろうな」
「・・・・・っ!むっかつく・・・・人がせっかく心配してやったら・・・」
「あーもうやめろって!ロリィが起きちまう!」


いつのまにかいつもの喧嘩を始めてしまった2人をシヴィルが慌てて止める。見ると、ロリィが寝返りをうっていた。リールはぴくりともしないが。


「あーごめんロリィ・・・とにかく、ヴィスは何も間違ってないよ。ルティラさんはそれが一番いいと思っていたんだから、だから・・・だからその・・・・・・・」

























まっすぐと見つめる眼





























「もう1人で悩まないでよ」























1人で、自分の中で閉じ込めないでほしい。
自分じゃなくてもいい。シヴィルでもロリィでもリールでも、ルティナさんと関係ある人でもいいから。


















「・・・お願い」




























「・・・・・・・・ああ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「・・・?何だよ」
「あ・・・・いや、なんでも」


あまりにもヴィスウィルが素直に承諾したから、思わず聞き返してしまった。こんなにも素直な奴だっただろうか、とシヴィルも少し眼を見開いていた。


「変な奴」


















吹雪はもう、弱まっていた。



















後書き
やっと書けた!ルティナ編!
それにしてもほんっと暗い子ですね、ヴィス君。
なんというか、ヴィス君、これでもまだふっきれていません。
とりあえず、何か軽くなったな、ぐらいです。まじで根暗だな、こいつ。
でもとりあえず、これはこの辺で終わらせとかないと、フィス編が終わらないので、また後ほどいろいろありそうです。
次回あたり、フィス編も佳境に入ってくるんじゃないでしょうか。
調子よくいけば。
あ、下書き書かないともう更新するものがなくなってくる・・・
20081224