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「そして1年前、戦争が起きた」
「戦争・・・」


大規模な戦争だった。何人もの犠牲者が出た。たくさんの被害が出た。歴史に刻まれている戦争の中でも5本の指に入るくらいの酷さだった。今でこそ復興しているが、街、いや国は炎に包まれ、至る所に血が飛び交い、叫び声うなり声泣き声が絶え間なく続いた。誰1人として笑顔を見せるものはおらず、目には獲物を捉える目しか見えない。肉の焼ける臭い、とてもじゃないが常人の耐えられる環境ではなかった。


「・・・・・そんなに・・・・・・」


想像したのか、麗は眉をよせる。


「・・・敵は、誰だったの?」


一瞬、静まり返る。だが、分かるか分からないかくらいのほんの短い時間。


「キルス国だ」
「・・・!」


考えてみれば不思議なことではない。カシオ内で有力といわれるリル族の集まるラグシールを倒せば、カシオの中でトップの位置に立つのは必然的だ。そして、キル族の唯一の敵といえばリル族だったのだ。
そう考えればラグシールとキルス国が接触するのは目に見えている。


「一応、戦争にならないよう、ねばったんだけどな。限界だった」


シヴィルもきっと、その戦争に狩り出されたに違いない。思い出すように顔をしかめる。


「キル族は武力だけじゃなく、魔法の技術も相当高い。俺たちはかなり魔力を消費されて・・・」


ヴィスウィルがゆっくりと目を閉じる。感情を殺すように。


「ヴィス、大丈夫?」


返事はなく、代わりに再びゆっくりと目を開けた。


「殆どの者が魔力を使い果たし、死ぬ直前だった。だがキル族は俺たちを上回っていて、まだ魔法を使えるものもたくさんいたんだ」
「・・・・それで、最後の手段に出たんだ」
「最後の手段?」


最後の手段。
それは、本当に今まででも1度しか実行されたことのないことだった。
魔法を使う、それは自分の中の要素をエネルギーにかえて技にすることだ。その転換をどれだけ最大限にできるかで魔力の大きさが決まる。魔力の大きい者は自分の要素を極限に近く転換しているのだ。
ということは、自分の中に魔力を取り込めば、また使えるようになるということだ。


「それって・・・・」
「ラグシール内の要素を取り込んだ」


ヴィスウィルの冷たいような、押し込めたような言い方。


「・・・・っ!でも、そんなことしたら・・・!」
「ああ。戦争に出た兵士のほとんどはフィス系だ。取り込む要素はフィス。下手すれば国民を危険にさらすことになる」


シヴィルが妙に大人っぽく見えた。年下とはいえ、一国の王子だ。現代の同世代ではありえないことだろう。


「だが、国民はフィス系だけで成り立っているわけではない。さっきシヴィルが言ったように、少なくとも3、4つは要素を持っている。だから国の4分の3くらいは使っても死にはしない」


暗に、苦しみはするかもしれないが、と聞き取れたが、あえて触れなかった。そんなことは、重々承知している。


「それで、兄貴は皆に指示を出したんだ。ラグシールの要素を取り込むようにって。兵士を引っ張ってたのは兄貴だったからな。やむ負えない選択だったんだよ」


きっと、本当に切羽詰っていたのだ。国民もキル族に支配されるくらいなら少しの苦しみくらい我慢できる。
そう、やむ負えない選択だったのだ。誰もがそう思った。皆平等に苦しんで、国を守れるならそれでいい、と誰もがそう思ったのだ。













でも―――――――































「でもたった1人、苦しむだけでは済まないやつがいたんだ」




























「・・・・・・・・・・・ルティナ・・・・・・・・さん・・・・・・?」


麗のつぶやきにシヴィルが頷いた。


「誰も知らなかったんだ。本人を除いて、あいつが純系だとは・・・・」


ルティナは誰にも話さなかった。家族にも、友達にも、ヴィスウィルにも。だから、ヴィスウィルも指示を出したのだ。


「純系は体全体が1つの要素で成り立っている。だからラグシールの要素を4分の3も使ったらそいつの体の要素も同じほど減るんだ」
「・・・・そ・・・れ・・・・・・じゃあ・・・・」


思うように声が出ない。
口を開かなくなってしまったヴィスウィルにゆっくりと顔を向ける。
ただ無表情に、地面を睨んでいた。












そのうち、薄い唇が開かれると、息が止まるような言葉を紡ぎだす。















































「―――――――――――・・・・俺が、殺した」







































後書き
ほほう!3日連続!奇跡です奇跡!
ブラッディ・マンデイを横目に書いてます!
おもしれー!はらはらするーー!(これあとがきじゃねぇじゃねぇか)
20081213