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「なんだ、話って・・・」


ヴィスウィルの姿はマリスの部屋にあった。麗の部屋の前でマリスは「話がある。一人で部屋に来い」と耳打ちしていたのだ。


「・・・レイのことだ」
「ウララ・・・?」
「本名はウララっていうのか・・・まあそれはどうでもいい」


いつもと違う、マリスの口調、雰囲気。それをヴィスウィルも感じ取ってふざけたことではないと真剣に聞いている。


「あいつ、異世界から来たんだよな?」
「・・・それがどうした」
「・・・知ってるか?お前」
「?」


マリスは特に口調も声の高さも表情も変えずに誰にも予想だにしなかったことを口にする。


「・・・・・・異世界から来た者は何もあいつが初めてではない」
「・・・・っ!」


麗のことさえ信じられなかったのに今更そう言われては頭の整理がつかなくなる。いつも一瞬先を見通せと訓練されていたヴィスウィルだが、こればかりはやむを得ないと言うべきでろうか。


「どういう・・・ことだ?」
「どういうことってそのままの意味だよ。このカシオに、違う世界から来た者はレイ一人ではない。前にも何人かいるんだよ。一番近いのは五年前くらいか・・・?」


マリスは疑問が残るように話すが、この際何年前であろうと関係ない。問題は麗のように異世界から来た者が他にもいるという事実だ。マリスはくだらない冗談を言うほど社交的ではない。嘘を言って反応を楽しむことはあるが、ヴィスウィルには通じないし、反応しないのでおもしろくないと知っている。


「お前らと同じように旅をしていて、俺のとこにきた。レイと同じく、魔力の暴走によって熱出していたよ」
「・・・それで、そいつは?」


もしその人がまだここにいたら訪ねてみる価値はあるし、いないというのなら元の世界に帰ったのかもしれない。そうすれば麗が地球に帰ることも可能だということだ。


「何、気になる?レイのために?」
「・・・・・・」


確かにヴィスウィルにとっては何の関係もないこと。話に食いついたり、驚いたり、ましてや詳しく聞く必要はないはずだ。


でも―――――――・・・














彼女が時々、とても寂しい顔をするから






























「いないよ」
「!じゃあ・・・」


マリスはふう、とため息をついて、自分の分だけコーヒーを入れる。きっとヴィスウィルに入れても飲まないと分かっているのだ。























「いや、死んだ」
「・・・・!!」











希望は断たれた。











































「んー・・・」
「レイ様!」


約一時間後、麗の目が開かれた。


「レイ!気が付いたのですね!」
「・・・ロリィにリール・・・シヴィルも・・・どうしたの?みんな集まって・・」
「どうしたのじゃありませんわ!心配ばかりかけさせて!」


ちなみにリールは先ほど起きてきた。ロリィは麗のベッドに跪き、リールは椅子に座って外を眺めて(睨んで)いて、シヴィルは目を閉じたままドアに背を預けていた。


「魔力の使いすぎで倒れられたんですよ」
「・・・・魔力の・・・使いすぎ・・・ってことは、私は魔力を使えるようになったの?」


麗は無意識に自分の掌を眺めた。


「らしいな。オレ達はまだ使ったとこ見たわけじゃねーから」
「マリス様がそう言っていたからそうなんじゃないんですの?だいたい、あの治癒魔法をどうやったら一晩で習得できるんですの?!」
「・・・・・・」
「私が悪かったわ」


麗の顔に笑い飛ばせない翳がおちるとすぐにリールは同情を覚えた。マリスは医者として本当に有名だったが、Sとしても相当有名だ。弟子入りして三日持ったものはいない。


「一晩が十年のように思えたわ・・・何をやったかなんて覚えていない。思い出したくもない・・・あれは人のやることじゃない・・・モラルがない、モラルが!」


味わった者しか分からない。珍しく麗が恐ろしいと思っているのだ。相当なものだったのだろう。これ以上は何もきいてやらない方がいい。


「それで?身体は楽になったのかよ?」
「あ、うん。そういえばもう全然平気!熱も完全に下がった・・・・し・・・ってあれ?ヴィスは?」


キョロキョロと部屋を見回すが姿はない。三人もならってヴィスウィルの姿を探し、ドアを開けてまで見るが、見つからない。


「いつのまにかいなくなってらっしゃいましたね。どこに行かれたんでしょう・・・」
「まあ、すぐに戻ってくるだろう。レイの様子も見に来るだろうし」


麗が回復したのだから、今すぐにでもここを出てオレジンに向かわなければならない。こうしている間にもラグシールは風化が進んでいるはずだ。

































「・・・・死んだ・・・・?」
「ああ、今はもういねーよ。一年前のあの戦争で死んだ」
「・・・・・・・」
「忘れたとは言わせねーぜ」
「・・・・・・忘れろって言ったのはてめーだろうが」


低く言い残してヴィスウィルは部屋を出ていった。








思い出にするには、重すぎる。













































「いいか?よく聞いて、レイ」
「聞いてるってば」


出発の準備を終え、馬に乗る麗にマリスは念を押すように言う。


「とりあえず魔法を使えるようになったことで、この前みたいになることはない。でも、多分オレジンに近づけば魔力が共鳴して爆発的に増えるはずだ。ヴィスウィル達はなんともないし、むしろ調子よくなるばかりだけど、お前の場合は違う。まだ系統もわかんねーし、暴走しやすい性質っぽいからな。もし少しでもおかしいと思ったらすぐにヴィスウィルに言って魔力を抜いてもらえ」


麗はえ?と後ろに乗る白い青年を見上げた。昨日の話しによると、魔力を抜くなんて芸当できるのはマリスだけだと皆がいっていたはずだ。当の本人はしれっとしているが。


「え、だって魔力抜けるのはマリスだけ・・・」
「こいつにも教えたんだよ、さっき」
「は?!」
「だから、こいつにもさっき魔力を抜く魔法を教えたからできるはずだ。こいつにやってもらえ」


整理しておこう。
マリスにしかできなかった魔法というくらいだから相当な高度魔法のはずだ。それをさっき麗が寝ていた何時間かで覚えたということだ。そういえば、心なしかヴィスウィルの顔色が思わしくない。


「本当にお疲れ様・・・」


マリスの恐ろしさを知っている麗だからこそ、心から言える一言だ。


「なんだ、私もマリス様に何か教えてもらえばよかったですわ!」
「!」


リールの何気ない言葉に麗が目を見開いてリールに振り向く。ヴィスウィルも一瞬ぴく、としたようだ。


「・・・・・・・・やるか?」


マリスがにやりとした。


「・・・・・リール、悪いことは言わない。やめときなさい」


顔が本気だ。


「そこまでですの?」
「あれをもう一回やるくらいなら地獄の夢でも見たほうがましよ」


目が据わっている。
麗がね、とヴィスウィルに振る。無視するかとも思ったが、できるものでもなかったらしい。


「・・・というより、地獄に行った方が数倍ましだな」


淡々と言うからこそ恐ろしい。しかもヴィスウィルが、だ。だが、麗ははた、と思う。思うだけに留まればよかったのに、あろうことか口に出してしまった。


「あれ?でもヴィスのお父さんはこんなマリスとヴィスをからかっ・・・」









二人の動きが止まった。









「ごめん。触れない」


もう一度あんな目に合うくらいなら喜んで地獄に行きましょう。






後書き
まだ終わんねーのかよフィス編・・・
なんて、自分でもおもってます。
あああ後5つくらいかな!(長)
一応下書きはフィス編終わったのですけれど!
あ、あれって終わったのかしら。
20080913