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夜が明け、7時ごろヴィスウィルが起きてきた。ロリィはすでにマリスの家の台所を借り、朝食を作っている。シヴィルは起きて椅子に座っているものの、目を閉じたり開いたりしてこくりこくりしている。当然リールはまだ寝ているが。
「・・・・マリスとウララは・・・?」
「レイ様はまだお休みですけど、マリス様ならさっき起きていらっしゃいましたよ?」
「マリスならさっきレイの部屋に入ってったぞー・・・」
やっと聞き取れる声でシヴィルがつぶやく。目は閉じられたままだ。ヴィスウィルはそうか、と一言いったあとシヴィルの正面に座り、長い足を組む。
「いいのか?いかなくて」
「何故だ」
「なぜって・・・マリスだぞ?何するかわかんねーし」
「大丈夫だろう。マリスは一度気に入ったやつのことをひどいようにはしない」
「そりゃそうだけど・・・」
ヴィスウィルは動じず、しらっとしているが、シヴィルは何か気に食わなかったのか、どこか不満そうな顔をしていた。
ロリィは2人の会話を背に、料理をしながらくすくすと笑っていた。
「はい、朝食の準備ができましたよ。レイ様も呼・・・」
ガタンッ!!!
「「「!」」」
突然、音がした。麗の部屋からだ。2人は未だ出てきていない。
「今の、レイの部屋からだよな」
「何かあったんでしょうか・・・」
音の原因を調べるため、3人は麗の部屋へ向かう。廊下は大して広くはないため、シヴィル、ロリィ、ヴィスウィルの順で進んでいく。
「・・・・・・あけるぞ・・・・」
「は、はい・・・・」
無駄な緊張感。
シヴィルがノブに手をかけ、ゆっくりと右へひねる。
カチャ、と音がして戸が少し開いた。少し風が通ってくるが、こんな隙間からは何も見えない。
「よ、よし・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・時間の無駄だ」
ロリィの上から伸びた手がドアをポン、と押す。キィ、とかすかに音をたてて大きく開いた。
「ヴィ・・・・ヴィスウィル様!・・・・心の準備が・・・っ」
「レイ!」
「え・・・」
ドアの向こうには当然麗とマリスがいたのだが、麗は床に転がっており、マリスはそれを覗き込むようにそばにしゃがんでいた。麗は深く目を閉じて意識がない。
「てめぇマリス!レイに何しやがった・・・!!」
シヴィルが腰に差してある剣をギリ、と握った。マリスはそれにも動じず、ヴィスウィル達を見ると、すっと立ち上がる。
「安心しろ。魔力を抜いただけだよ」
「抜いた・・・?」
「ああ、一応、だけどね。とりあえず今こいつの中にある分はできるだけ抜いたけど、全部抜いちゃうと死ぬ可能性だって十分ある。少し残しておいたから、いずれまた増発するだろうけど」
確認しておくが、こんな器用なことをできるのはこの世界に数えるほどしかいない。その1人がマリスだ。魔法のテクニック、コントロール、強さ、完璧でないとこんな芸当はできない。テクニックに関しては国王、シヴァナよりも上とも言われていた。
「じゃあ、どうすれば・・・」
「そんなん魔力使うしかないでしょ」
「でもレイは魔法を使えないんだぞ?!」
「・・・・・・使えるよ」
「「「!」」」
マリスは淡々と喋り、床に転がったままだった麗をすっと持ち上げ、ベッドに寝かし、上から布団をかけてやる。
「・・・・ウララが魔法を使える・・・?」
「ああ、使えるようになった。今さっきな」
「今さっきって・・・」
事実を話すと、昨夜、ヴィスウィルが麗の部屋を出た後、マリスは麗を訪ね、ずっと朝まで魔法の特訓をしていたのだ。当然、麗はもちろん、マリスも寝ていない。ロリィがキッチンで見かけたときは、少し一息入れていただけなのだ。
魔法が使えるようになれば無意識のうちに魔力を放出できるようになる。また熱を出して倒れることもなくなるのだ。
「一応、治癒魔法を教えといたよ。魔力も丁度いいくらいに使うし、一番役立つでしょ」
「治癒魔法って・・・・・!マリス様!レイ様は治癒魔法をたった一晩で?!」
ロリィが驚くのも無理はない。治癒魔法は高等魔術。魔力、テクニック、共にそろってなおかつかなりの修行をしなければ得とくするのは無理だといわれているのだ。魔法の素質があるといわれたロリィでさえも3年はかかった。それでも早いといわれたのだ。それをたった一晩で習得するとは言葉に出さなくてもどういうことか分かる。
「僕もびっくりだよ。魔力もびっくりだけど、何よりもこいつのテクニック、飲み込みの速さは尋常じゃない。それでもかなーり頑張ったんだけど。・・・恐れ入ったよ、全く」
きっと、頑張ったなんて簡単な言葉では言い表せないものがあるのだろう。ため息をついているくせに目にはありえないとでも言うようだ。
「だからこうやってぶっ倒れちゃったんだけどね。今は魔力が安定しないから僕の方で魔力は抜かしてもらった。目が覚めたときには自分で魔力を放出できるようになっているだろうし、微熱も下がって元気になっているよ。ただ、こいつは魔力の増発が大きすぎるから追いつかない部分は誰かが抜くしかない」
そう言ってマリスは部屋を出て行く。眠気も限界なのだろう。
「!」
だがマリスがヴィスウィルの横を通り過ぎた瞬間、ヴィスウィルはかすかに反応した。が、何事もなかったようにすれ違う。
「レイ様・・・・何て無茶を・・・」
ロリィが麗のそばによって乱れていた髪に、すっと手ぐしを通す。
「でもこれでレイがつらい思いをすることはなくなるんだよな・・・・って・・・・兄貴?」
シヴィルが振り向いた時にはもう、ヴィスウィルの姿はそこにはなかった。
後書き
久々ー。
なかなか終わらないフィス編。
未だ下書きもフィス編は終わってません。
長い。長すぎる。
20080725
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