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「魔力の暴走?」


マリスは麗にかけた魔法を解除し、治療までした。麗は今は奥の部屋で寝ている。


「ああ、間違いないね。その異常な高熱は自分の中にある魔力があまりに大きいために身体が耐えられなくなっているんだ」
「え、でもレイには魔力はなかったんじゃないんでしたの?」
「・・・・そのはずだが・・・」


第一、この世界の人ではない。だが、魔力があるかどうかなんて確かめたことはなかった。


「何かがきっかけで目覚めたんだろうね。何かあっただろ、魔力を使うようなこと」


麗は魔力を使ったこともないし、そのようなことを見せたこともない。もし、何かがきっかけだとしたら・・・・


















「要素を入れたとき・・・・」


ヴィスウィルがぼそ、とつぶやいた。
確かにあのあとから麗は体調を崩している。


「そうか・・・・それしか考えられねーな・・・」
「なるほどね。要素の仲介者か・・・・・それだろうね」


普通、魔力の強い者、ヴィスウィルなんかは必要なときだけでも魔法を使い、魔力を放出している。だが麗は魔力を放出する術を知らず、自分に魔力があることさえ知らなかった。眠っていた魔力が要素をラグシールに入れた際、一気に溢れ、それが高熱としてでてきたのだ。


「そ、それじゃあ、あのすさまじい氷の壁は・・・・!!」
「ウララが俺を介して魔力を放出した結果だろう。あの後少し体調が回復していたしな」
「あいつが・・・」
「それと・・・」


マリスが付け加える。


「あの女、この世界の者じゃないね?」
「!」


マリスにはまだそのことは話していないはずだった。マリスなら、別世界の人間というと、おもしろがって解剖でもしかねないからだ。


「どうしてそれを?」


ロリィが麗が解剖されるかもしれないと怯えている。


「んなもん見りゃ分かるっての。ったく、魔力を持つ異世界のやつなんて初めてだから下手な魔法使えないし・・・」
「本当なの?それ」


ちょうどマリスの真後ろから声がした。寝ているはずの麗が、壁を支えにして立っていた。


「レイ様!」
「レイ!あなたまだ寝てなさいって!」
「いーやーよー」


驚いてみんなが立ちあがる中、麗は空いているマリスとヴィスウィルの間の席に座る。足取りも軽く、顔色も普通だ。マリスが治療したためだろうか。


「なんで私のこと話してるのにのんきに寝てなきゃなんないのよ。ここにい――――――・・・っひゃっ!!」


横からヴィスウィルが手を出し、手の甲を麗の首筋にあてる。


「・・・・まだ熱い」
「もうヴィス!熱測るからって急に触るのやめてよ!あんたの手冷たくてびっくりするじゃない!」


問題はそこかと誰もがつっこみたかった。1人、リールだけは羨ましがっていたが。


「今は薬で症状を止めているだけだよ。解熱剤でもよかったけどただの風邪じゃなかったからね」
「あ・・・・・えと・・・・・・さっきは・・・・・ごめんなさい・・・・・」


麗はマリスの顔を見て急に謝りだす。


「ひどいこと言っちゃって・・・診てもらったのに」
「それ俺に謝ることじゃないし」
「へ?」


どっちかと言えばひどいこと言われたのはヴィスウィルの方だ。どうやら麗には自覚がないらしい。魔法にかかっていたということで許してやって欲しい。


「でもしばりあげちゃったし・・・・」
「ああそれね。2人目だよ。俺をあんな風に扱ったのは」
「・・・・2人目?」


初めてなら名誉物にもなろうが、2人目なら大して有名にはならない。


「そ、2人目。1人目はルティラ=フィスィス=スケル・・・」
「マリス!!!」


珍しくヴィスウィルが声を荒げる。





























「俺の前で・・・・・その話をするな・・・・・・・」


押し込めたような、震える声。ぎゅっとヴィスウィルの拳がにぎられる。


「・・・・・お前、いつまで引きずってるつもり?いいかげん現実見ろよ」


気がつけば麗以外の全員の表情が曇っていた。どこかで、似たような名前を聞いた。だが、今ここでそれを確かめてはいけない、とその場の雰囲気が許さなかった。


「あっ・・えと、いやいいから!大丈夫!教えてくれなくても!えーとえとえとーー・・・・マリス?マリスとヴィスはその、昔から知り合いだったの?!」


どうにか話を変えるためでもあったが、会った時から妙に親しげな感じで気になっていたので口に出してみた。


「・・・・・・知り合いというほどでもねぇが・・・・」


不機嫌のままヴィスウィルがつぶやくが、話題を変えられたことに一同はほっとする。


「昔、城の専門医がこいつだっただけだ」
「十分知り合いだけどそれ」


ちょうど1年程前だろうか。マリス=フィス=カンダートはアスティルス家に仕える医者だった。その腕は一流、しかも容姿まで整っていたので国の女性はほおっておかなかったらしい。
それが、何かをきっかけに、城に仕えるのをやめ、故郷である氷の国へ帰ったという。自分ではもう医者はやっていないと言うが、その実力はいまだ健在である。


「きっかけって・・・・・・・・・・・・・・いや!いやいやいやいや!いいですいいです!そか、昔からヴィス達のこと知ってたのかーーー」


きっかけが何なのか聞こうと思ったが、皆同時にうつむいてしまったので即座にやめた。


「だけど1歳違いなだけだからね。兄弟みたいに育ってきたんだよ、実際」
「・・・・・・・兄弟?俺とお前が?」


ヴィスウィルはギロリとマリスを睨みあげる。マリスはこわーいとおどけてみせるが、慣れたものがあるのか、目が笑っている。そうでなければ固まっているか、震えあがっているだろう。


「だってそうじゃん。2人してお前のオヤジさん、国王様とオフクロさんの女王様にからかわれていたし、シヴィルをからかったりもしたじゃんかー」


からかわれていたのかシヴィル。当の本人はこちらを見ようともしない。


「馬鹿言え。お前はオヤジとおふくろのあれがからかいにとどまっていたとでも言うのか」
「・・・・・・・・・言わないね」


どれだけひどいからかわれ方をしたのだろうか。いや、いじめの域まで達していたのだろう。心なしか2人の目が遠くなっている。
そんな姿を見て麗はくすっと吹き出した。


「レイ?」
「あははははっ!いや、ヴィスの友達とか見なかったからさっ。なんかおもしろくって・・・・あははっ・・」
「友達でもない。敵だ敵」
「冷たいなー、ヴィスウィルぼっちゃんは」
「黙れ」


2人が話す度に麗の笑い声は大きくなる。他は最初何がおかしいのかと不思議に見ていたが、そのうち麗につられてヴィスウィルとマリス以外の全員が笑い出す。
本当は笑っている場合ではない。でも、そんな中でももし許されるのなら、できるだけ笑っていたい。ずっと怖い顔しているよりは笑っていた方がきっと何事もうまくいく。



















































「ほら、病人は寝る時間だよ」
「大丈夫だって。じっとしていれば平気だから」


時刻は11時をまわっていた。麗のこともあるので、とりあえず今夜はマリスの所に泊まることにした。マリスは知らない相手には相当なことをするが、気を許した相手であれば結構社交的だ。少なくともヴィスウィルよりかは。


「ばか。薬が効いてるだけだって言ってんのに。ほら、贅沢にもヴィスウィルがついてってやるっつってるよ」
「言ってない」
「ありがたすぎて余計行く気なくす」


1人で寝室に向かおうと麗は立ちあがった。続いてヴィスウィルがため息をつきながらも席を立った。


「大丈夫だってヴィス。1人でいける」
「うそつけ。そんなにふらついてるやつの言うことなんか信じられるか」
「そんなことない!なんならスキップで行ってやるわよ!」
「やっとけ変人」
「・・・・・っむっかつくやろうめ・・・・」


そんな会話をしながら2人は寝室へ行った。
2人を目で送りながらロリィがそっとつぶやいた。


「珍しいですね。マリス様があんなに簡単に患者を診るなんて・・・」


今までは最低2日ねばって祈り倒さなければ診察などしてもらえなかった。いや、それでも診てもらえればマシな方だ。どんなにお願いしてもだめだった例も数知れない。正直、ここを訪ねたのはダメ元だった。マリスを知る4人誰もがまともに診てもらえるわけないと思っていたのだ。でも、行かないよりは少しでも可能性にかけようと思った。


「・・・・・・・そうだね。だから2人目なんだよ、あんなやつ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルティラ様ですか?」
「うん」


そううなずく声は会ったばかりの彼とは一変していた。
昔話を語るような、穏やかで優しい声。




後書き
マリスの性格が定まりません・・・
というか、喋り方が。
性格は普段結構軽いやつ、なんですが、喋り方が・・・・
真面目なときとごっちゃになっちゃう。
20080524