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どのくらい、こうしていただろうか。
いや、それよりも自分はまだ生きているだろうか。
5人全員が同じことを思った。
目を開けたらエンマ大王とかがいないだろうか。非常に困る。
ゆっくりを目を開けた。自分のまぶたが持ちあがるのが分かるくらいに。
「・・・・・・!!!」
目を開けたそこは、雪の中でもなく、天国でも地獄でもなく、エンマ大王が裁きを下している途中でもなかった。
「これ・・・・・!!」
思わず息を呑むほどのオブジェともいえる氷の壁が出来あがっていた。横は先が見えない。上は高層ビル程ある。太陽の光に当たっても溶けることはなく、氷の中で反射、屈折を繰り返して七色に輝いている。まるでオーロラが形になったようだ。
「・・・・なんて素敵なのかしら・・・・」
さっきまで命の危険にさらされていたはずなのにリールの口から漏れた言葉はそれだけだった。だが無理もない。きっとこれを見たら誰もがそう言うに決まっている。
「え・・・でもこれ・・・兄貴がやったのか?」
あの時点で立っていたのはヴィスウィルだけだが、ヴィスウィルを含む誰もがこんな大規模な氷の壁をつくる魔力は残していなかったはずだ。
「・・・いや・・・俺じゃ・・・」
ふと、自分の抱える少女を見た。
黒い瞳は閉じられて見えない。
「――――!ウララ!おい、ウララ!」
「レイ?!」
動かない、返事がない。
今までの身体の熱が、ない。
「おいウララ!起きろ・・・っ!お前は・・・・俺の目の前に・・・・・・・・っいるんだろう・・が・・・っ!」
徐々に小さく力のなくなっていく声。
代わりに、手には力がこもる。
俯いた顔はシヴィル達には見えない。
「・・・・・兄貴・・・・」
「ヴィスウィル様・・・」
目の前にいる、そう言ったはずなのに
「ルティも、お前も・・・・・・・・・・・・・何で・・・・・・・」
「ヴィスウィル様・・・・・」
ロリィがそっとそばに寄る。
「・・・・・・あ・・・・・にき・・・・レイを運ぶぞ。こんなところで死ん・・・・・」
「死んでないわよ」
「へ?」
妙に元気な声が聞こえてきた。その場の雰囲気ぶち壊しだ。
「何勝手に・・・殺してんのよ。息くらい確かめろっつーの」
それは他の誰でもない、麗の口からもれた言葉だった。
「レイ?!何よ!生きてんじゃない!」
「だからあんたらが勝手に殺しただけでしょ!ちょっと気失ったくらいで埋葬しようとすんな!」
本当に死ぬ。
いつもの、強気の麗だ。黙っていれば女優オーディション総なめであろう麗だ。最も、こいつには演技力が皆無なので無理だし、本人にその意志はないので女優になることはまずないが。
「レイ様!・・・・・よかっ・・・・た・・・・あ・・・・!」
ロリィが溜めていた涙を次から次へとこぼす。こんなかわいい子に泣かれると麗も何か、悪いことをした気分だ。
「ああロリィ、泣かないでって!ほら、私は大丈夫だから!」
ヴィスウィルから少し離れ、自力で立ってみせる。だがそれは成功したものの、すぐに崩れた。
「っあ・・・・っ」
どさっと倒れたのは雪の上ではない。
「・・・ヴィス・・・ありが・・・」
「ウララ・・・・・」
「・・・ん?」
誰よりも最初に大丈夫だよ、と伝えたかったのはこの白い青年。
きっと、一番分かりにくく、心配してくれていた人。
「目の前に・・・・いるのか・・・?」
「何が?いるじゃない、ばか。何よ、このナイスボディが目に入らないわけ?」
「・・・・・・・・・・・・ただの紙切れのような身体しか・・・」
「埋めるわよ」
この会話ができることに、多大な感謝を。
誰でもいい。神様でも天使でも精霊でもエンマ大王でも。とにかく、この瞬間があることを感謝したい。
後書き
超短め。
ヴィスのキャラが壊れとります。
20080429
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