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静寂の闇、冷たい床、人間の温かみ、突如襲ってくる白い光
「―――――っら・・・・・・・らら・・・・・・・・・・・・・・・・・麗!」
「――――っ・・・・さ・・・・・くや・・・・?」
黒い髪、さわやかさ漂う雰囲気、アルトに近い声。ラグシールに行く前に一緒にバスケをしていた人物で・・・・
きっともう、しばらく会えないと思っていた。
「あれ・・・私・・・」
「大丈夫か?気失ってたんじゃねーの?」
「そう・・・・だっけ・・・・・って・・・ヴィスは?!」
周りを見回してもそこは見慣れた体育館。どこにも雪なんてない。白い青年なんていない。咲哉だけだ。
「ヴィス?誰だよそれ。夢でも見てたんじゃねーか?」
「・・・・・・・・・夢・・・・・・・・・・・・」
そう言われたらそうかもしれない。何も現実だって立証できるものなんてないのだから。
夢だったのだろうか。ラグシールも、ロリィも、シヴィルも、リールも、スルクもアーナにペリシャ、それからカティやシヴァナ、あの山賊達も、それから―――――・・・・
ヴィスウィルも
こんなに鮮明に覚えているのに。
とても、とても長い夢だったのだろうか。
「うそ・・・・・だって、雪崩が・・・・」
「雪崩?何言ってんだよ。本当大丈夫か、お前。頭打ったんじゃ・・・・!」
怪我はないかと麗の前髪をそっとかきあげる。だが、気付いたのは怪我なんかではない。
「ってお前っ・・・!!すげー熱!何で早く言わなかったんだよ!分かってたらバスケなんてしなかったのに・・・」
「・・・熱・・・・?そうだ、私、向こうで熱だして・・・・じゃ、じゃあ夢じゃ・・・・・・ない・・・・・?」
「・・・・麗・・・?」
俯く麗を咲哉は覗きこむ。かすかに震え、熱を持った手。ふと、麗が顔をあげた。
「ん?どうかしたか?」
「・・・・・・・・・・誰か、呼んだ?」
「へ?」
確かに麗には聞こえていた。どこからか遠く、ウララ、と呼ぶ声が。
咲哉よりも低い、透き通るような音色。
この声は・・・・・・・
「ウララ!」
「――――――っ!!!!」
飛び起きた。
寒いのにも関わらず、じっとりと汗をかいている。
「・・・・大丈夫か?」
「・・・・・・・ヴィス・・・・・・・・・・」
横の、かすかに雪をかぶっている白い少年を見た。
いつもと変わらぬ綺麗な瞳に、モデルのように整った顔。いや、モデルでもこんな綺麗な顔を見つけ出すのはまず無理だ。
「・・・・・ヴィス・・・・私を、呼んでた?」
「あ?あぁ、まぁ・・・・」
「そか・・・・じゃあこっちが現実・・・・」
「は?何言って・・・」
「ううん、何でもない。それより、雪崩は?みんな無事なの?」
辺りを見回す。洞窟からは押し出されて100mくらい流されたようだ。周りが雪で、寒いのには変わりないが、吹雪もやみ、太陽が顔を見せている。もう夜は明けていたのだ。
すぐ近くでシヴィル、ロリィ、リールの順で雪から顔を出した。
「みんな!良かった、無事だったん・・・・・・っ」
「ウララ!」
「ちょ・・・レイ!」
言葉を言い終わるか終わらないかのうちに、麗はヴィスウィルの方へ倒れこんだ。
「レイ様!」
3人も雪に苦戦しながら近寄ってくる。
いつもなら大丈夫、と無理矢理笑う麗だが、今回ばかりはそうもいかなかったらしい。苦しそうに荒い息を繰り返す。
ヴィスウィルもいつもと違うと分かり、冷や汗が流れた。そっと触れる頬は熱したように熱い。
「・・・っヴィス・・・っ・・・寒・・・・い・・・」
大袈裟なまでに震える麗だが、決して大袈裟ではない。ここの寒さは優に日本の寒さを越している。南極、北極とまではいかないまでも、雪国を裸で歩き回ってるような寒さなのだ。
ヴィスウィルはさっと上のコートを脱ぐと麗にかぶせ、すっと抱き上げる。
「ヴィスウィル様、どこへ・・・」
寝起きで機嫌の悪いはずのリールも不安を隠しきれない。
「確かマリスの家がこの辺りのはずだ」
「ああ、あの・・・・・でもそこ行ってちゃ間に合わないんじゃねーのか?」
「風の国を出発したときのスピードでいけばどうにかなる」
「まあそうだけど・・・」
馬に乗り、ヴィスウィルが麗の額を魔法で冷やしつづけた。雪をかき集めてもよかったのだが、それだと冷たすぎるのだ。
「ウララ、寝るなよ。凍死するぞ」
「う・・・・うん」
吹雪はやんだとはいえ、気温は下がる一方だ。もちろん、それはオレジンに近づいている証拠でもあるのだが。
馬も体力がなくなってきたのか、以前よりスピードが落ちてきた。シヴィルやロリィ、リールの馬より断然体力のあるヴィスウィルの馬、ルイでも息が上がっていた。それでも麗の今の状態を分かっているかのように全速力をあげている。その様子をヴィスウィルも分かったのか、走りながらルイの頬にそっと手を触れる。
「ルイ・・・・悪いな。マリスのところまで頑張ってくれ」
ルイはヒヒン、と鳴き、少しスピードを上げた。主人に答えるように。
「初めて見た・・・」
「は?」
リールがヴィスウィル達の後ろでつぶやいた。
「ヴィスウィル様があんなに焦ってらっしゃるの・・・あの方はいつも冷静沈着で、何事にも動じない方だったのに・・・」
「あー・・・まぁな。最近そうもいかなくなったっぽいぜ」
シヴィルのついたため息が白く現れる。
「レイのせいってこと・・・・?」
「なんだ、気付いてんじゃねーか」
そういって振り向いたリールの顔は悲しみ8割の笑顔だった。気の強いリールはめったにこんな顔を見せない。シヴィルもそれを分かっていたから何も言わずにいた。
「分かりますわ、そのくらい。私だって女ですのよ。時々、レイに向けるヴィスウィル様の目はすごく優しいもの・・・」
誰に対しても無感動で、興味はおろか、何の感情も抱かないあの人が。
ヴィスウィルは本当は優しいんだってことは分かっていた。それを表に表さないだけだってことも。でもこの人には、レイと呼ばれるこの少女だけにはその優しさを少しずつ見せ始めている。
「くやしいけど、なんとなくしょうがないって感じもしますもの・・・」
「あれ、お前らしくねーな」
「・・・っだって、多分、いいえ、絶対私が男だったらレイに惚れていますもの・・・」
女である今だってそうなのに。
「・・・まあ、オレが兄貴の立場だったら理性を保つ自信はねぇな」
「!」
きょとん、とリールが不思議な顔をする。
「・・・?何だよ?」
「シヴィル様、それで保っていたつもりだったんですの?」
「え?」
「あはは。リール様、言っちゃだめですよ」
ロリィが横で笑いながら言う。リールもロリィもシヴィル以上にシヴィルの気持ちは知っていたらしい。
「だから何だよ?」
「いいえ、何でもありません。さ、リール様、行きましょう」
「そうね。・・・・・・・・・・・・シヴィル様」
「あ?」
「・・・・・・・・ガキですわね」
「?!」
にた、と笑ってシヴィルを通り越していくリール。シヴィルだけが取り残され、不思議な顔をするばっかりだった。
後書き
・・・・・頑張れシヴィル。
リールは私の中でいじるキャラなんですが、それにいじられてるシヴィルって・・・・
楽しい・・・!いじるの超楽しい・・・!(ドSめ)
20080405
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