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「起きろ、ウララ」
「んー・・・もう朝ー?」
「朝じゃないがもう出るぞ」


結局あれから皆が皆疲れきっていたので仮眠をとることにした。ヴィスウィルもシヴィルもいくらか顔色を取り戻したようだ。アーナも泣き疲れて眠っていたので出発するわけにもいかなかった。


「もう出るってまだ真っ暗じゃない」
「これ以上待ってられない。俺たちの体力が持たないからな」
「あ、そっか」


仕方なく麗はアーナを起こし、出発の準備をした。


「ねぇ、前から訊こうと思ってたんだけどさ、そのー何だっけ、源玉?っての1つしかないの?」
「・・・・・」
「何よ」


ばかかこいつは、という目で見られ、麗はたじろぐ。何か不適切な発言があったのだろうか。


「んなわけあるか。源玉は毎年1回生産される」


各オレジンで年に1回だけ源玉が作られる。といっても、人の手で作られるわけではもちろんない。ごく自然に、宝石の原石ができるときみたいにできるのだ。だからこの世界は同時に2つ以上の国が要素を極端に少なくする時期が重ならないようになっている。つまり、この10年に一度、要素が少なくなる時期がくる国は年に一国だけということだ。
今年は偶然それがラグシールで、偶然麗がこの時期にこの世界に・・・・・・
本当に、全てが偶然なのだろうか。


「じゃ、じゃあやばいんじゃない!あのキル族に源玉奪われちゃ!」
「だから前から言ってんだろバカレイ」
「お子様は黙りなさい」
「お前なぁ・・・!!」


いきなり立ちあがったせいか、シヴィルは立ち眩みに似た眩暈に襲われる。


「!」
「シヴィルっ!」


すかさず麗がシヴィルの肩を支えた。


「シヴィル様!」
「ちょっと・・・本当大丈夫なの?」


麗は昨日から調子の悪いシヴィルを覗きこむ。


「!」


シヴィルはびっくりして一歩後ろに下がってしまった。
この暗闇でもよく分かる白い肌、なめらかな輪郭、流れるような髪と、大きな透き通る黒い水晶。誰がどう見ても綺麗としか言いようがないが、普段いつも自分が見慣れているリル族とは違った美しさ。最初見たときは何だこいつ、としか思わなかったが、今見るとこんなにも・・・・


「?シヴィル?」
「っ・・・!バ、バカっ!!大丈夫に決まってんだろアホレイ!は、離せ!」


いつ決まったのかは知らないが、シヴィルは無理矢理麗から離れた。頬が少し赤くなっていたことは麗には分かるまい。


「だったら心配しないけどさー。あんた本当失礼ねー」


ま、いいけど、とつぶやきながら麗はロウを連れる。
その様子をロリィが微笑ましく見ていた。もちろん、ヴィスウィルは興味を示さない、はずだったが、今はただ無表情に2人を見ていた。感情は読めない。
ロリィはヴィスウィルの様子も見て、微笑みながらふぅ、と小さくため息をついた。




























とりあえずオレジンに行けばスルクもペリシャもそこにくると踏んで、一行はオレジンへ歩を進めた。
麗は2人乗りができるほど乗馬になれていなかったし、防衛上、麗がヴィスウィルと乗り、アーナがシヴィルの所に乗った。麗とロリィが逆になっている案もでたが、麗よりかはロリィの方が魔法も使えるのでこの形になった。
麗はヴィスウィルを見上げた。
繊維のような細い銀髪と、さらりとした肌に整ったパーツ。長い睫毛の下にあるのはいつも通り凛とした綺麗な碧眼だ。王子と呼べるにふさわしい高貴な空気、油断すると吸いこまれそうになる。要素の激減のせいでその顔色はなくなっているが、存在感は変わらない。


「何だ?」


麗の視線に気づいたのか、ヴィスウィルは前を向いたまま訊ねる。


「あ・・・いや、なんでもない」
「?」


すぐに麗は目をそらしたが、意識はまだヴィスウィルに向いていた。
勝手にアーナを連れてきて怒っているだろうか?そういえばこの前何故か怒っていたが、どうしてだろう?訊きたいことは有り余るほどあったが、いざ何、と訊かれると黙ってしまう。応えが怖かったのだろうか。いや、もっと怖かったのはヴィスウィル自身。


「・・・・何を思ってるんだ?」
「へ?」
「この前から・・・何かずっと考えてるんじゃないのか?」
「え・・・べ、別に・・・?」
「うそつけ。ずっと無理して笑ってるくせに。分かりやすいんだよお前は」


嘘。そんなはずない。昔から感情を隠すのがうまくて本当につらくても他からは分からないと家族からまでも言われたのに。
多分、ヴィスウィルがずっと麗のことを気がかりに思っていたのだろう。


「・・・・・・・・・別に、さ・・・あんたの仕事手伝いたいとかそんなこと思ってるわけじゃないんだけどさ・・・」


麗はヴィスウィルにはかなわないとわかると、保っていた笑顔を崩す。それでも自嘲気味に微笑む姿は心配せざるを得なく、今まであの笑顔と気力を保っていたことにヴィスウィルでさえ驚いた。


「・・・・・私、足手まといになってない?」


勇気を出した。
もしここでなっている、と答えられたらどうしよう。今からでもこの馬を下りて帰るべきだろうか。






帰るってどこに・・・・?





地球にいたころは居場所なんて探さなかった。気にもしなかった。でもそれはちゃんと居場所があったから。でもここでは自分の居場所はあるのだろうか。本当はそれが訊きたかったのかもしれない。
いつの間に、こんなに臆病になってしまったのだろう。
柄じゃないな、と言ったことをなしにしようと思った。


「ごめん、やっぱなんでも・・・」
「なっている、といったらどうするつもりだ?」
「・・・・・・・・・」


思わずヴィスウィルを見たまま止まってしまった。ヴィスウィルも同じように麗を見返している。吸いこまれる。


「どう・・・・・って・・・」


教えてよヴィス。




言葉に出さずに伝わればいいと思った。












「お前はここにいればいい」
「・・・・・・・!」










待ち望んでいた答えかどうかは分からない。
だけど多分、今の麗には一番適切な答え。









「・・・・・だっ・・・・・誰がどっか行くっていったのよバカ!」


この嬉しさが素直に言葉にできない。







言葉に出さずに伝わればいいのに。





後書き
半分シヴィルスペシャルです。
ていっても本当、少ないですけど。
ごめんシヴィル。
20080328