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「じゃあお母さん、行ってきます」
「あぁ、気をつけるんだよ。他の3人もね」


ロリィの母親に見送られ、4人は出発した。いつキル族が襲ってくるやも分からないので、麗はヴィスウィルが、ロリィはシヴィルが守るようにそれぞれ並んでいる。キル族が現れていなくても自分たちの死角には入るなと麗とロリィは言い聞かされた。麗には一応の護身術はあるものの、キル族相手では通用しないだろう。


「ウララ」
「ん?」


ヴィスウィルが唐突に呼ぶ。少なくとも冗談を言う雰囲気ではない。


「お前は特に気をつけろよ。一応この前同じ魔術にはかからないようにしたが、キル族は他にも殺人魔術など余るほど持っている」
「悪趣味極まりない種族ねー」
「何故この前もお前を狙ったかは分からねーが、興味を示していたからな」
「っうわ・・・っやだ!どうにかしてよヴィス!」
「できるならやってる」


麗はヴィスウィルにできないことなんてないと思っていた。いつもえらそうで、世界の中心は自分だと言い張っているような口振りだったので。でもそのヴィスウィルからそんな言葉がでてきたのに妙な違和感を感じた。
ラグシールはカシオの中でも強国とされる国だ。ましてやそのラグシールをほぼ統べるリル族王族、さらにフィス系を統べるという肩書きをもつアスティルス家はカシオの中でも重要な位置に立っているとは言うまでもない。そのアスティルス家に肩を並べるのがキル族だ。アスティルス家だけではない。このカシオの中で強国とされる国、殆どと敵対視している。ヴィスウィルがいつものように余裕の口振りではいられないこともうなずける。


「とにかく離れるな。自殺でもしたけりゃ他でやれ」
「したくないから――――――って・・きゃっ!!」


風が強く吹いた。
草木を次から次へと揺らしていく。あまりにも突然で、しかも強い風だったので麗は思わずバランスを崩しそうになった。
砂も埃も舞い上がり、4人は思わず目を閉じてしまう。


「・・・・・・・ロリィ、準備しておけ」
「――――はい」


風が過ぎ去った後、バランスを崩しかけた麗の肩を支えながらヴィスウィルはロリィに静かに言った。


「な、なにが・・・?」
「自分で考えろ」
「分かるわけあるか!」


様子を見ていたロリィがくすくす笑いながら私がお話しますよ、と言う。
オレジンは要素の源である。オレジンに近づけば近づくほど空間がそのオレジンの要素で多く占めてくる。今は風のオレジンに近づいているから風が強くなっているのだ。


「1q以内に入ったら人はもう1人では立っていられません。今はまだこの程度ですが、もう少し近づくと結界が必要になってくるんです」
「オレ達はフィス系だからな。フィス系はエイス系に弱い。結界ができないわけじゃねーけど、よりオレジンに近づくと効力はない」


シヴィルが後を続ける。
この中で風の魔術を使えるのはロリィだけだ。とりあえず風がさほど強くないときはヴィスウィルとシヴィルで結界を張っておいて、強くなってきたらロリィにしてもらうらしい。同じ人がずっとしていては体力がもたない。


「どうする?兄貴。とりあえず兄貴の方が今の弱い内にしてたほうがいいだろ?」
「・・・あぁ、そうだな。こんな状態じゃお前の方が魔力が強いだろうからな」


そう言ってヴィスウィルはすっと眼を閉じる。なにやら麗の言語知識にはない言葉をつぶやいた。


「!」


途端、眼と閉じざるを得ない光が発せられ、4人の周りに円形の膜のようなものができた。
風は止んだように見えるが、結界の外は激しく草木が揺れている。


「俺の体力が持つうちに行ける所まで行くぞ」
「これが結界です。まぁ、私が張る結界とヴィスウィル様達が張る結界は属性が異なってきますが」


いわばヴィスウィル達が張るのは"氷の結界"で、ロリィが張るのは"風の結界"である。
ロリィがそう説明している間、麗は相槌はうっているが、意識はまるで向いていなかった。ロリィもきっと、麗はヴィスウィルのことを心配していると分かっている。でもそれはロリィもシヴィルでさえ一緒だ。多分ヴィスウィルは自分の限界まで結界を張っておくつもりだ。麗はシヴィルのそっと近づいて耳打ちする。


「ねぇ、できるだけ早く交代してあげて?」
「・・・分かってるよ、そんなこと。でも実際、どっちにしろ兄貴の力は必要なんだ。敵と遭遇したらオレだけじゃ力不足だろうし、お前らは戦力外だろ」
「う、うん・・・まぁ・・・」


自分の身くらい自分で守ろうとは思っているが、敵に立ち向かおうとは思わない。きっと逆に迷惑になるに違いない。それが何だか悔しかった。戦力にならなくてもいい。でもせめて足手まといにはなりたくなかった。


「・・・あーあ。魔法でも使えればねーー・・・」
「は?!お前が?」
「あ・・・」


心の中でつぶやいたつもりが、つい口に出てしまった。
「うわー・・・私今これまでの人生で一度も願ったことない想いが・・・」
「お前が魔法なんて無理に決まってんだろ。だいたい、魔力もねぇくせに」


シヴィルに鼻で笑われる。ロリィもフォローが難しいのか、苦笑いを浮かべているだけだ。


「何よー。人間やってみりゃできることだって・・・・・いや無理だわ」
「何だお前」


生まれてこの方魔法が使えたらとも、空を自由に飛びたいなっ♪ともドラ○もんが欲しいとも思った事はなかった。いや、ド○えもんはたまにある。だが普通に考えて無理なことは願わなかった。ドラえ○んはこの先科学技術が発展していけば可能じゃないこともないかな、と少し思っただけだ。なのに今、本気で魔法が使えたら、と思っている。だいたい、目の前で魔法が普通に使われていること自体おかしいのに、もう見慣れてしまって、ちょっとやそっとじゃ驚けない。
"もうちょっと夢持とうよ"とまで言われた麗が魔法に憧れを抱いている。環境とはこうも人を変えてしまうのだろうか。


「つか、レイは系統は何なんだ?調べてねーの?」
「は?調べるって?」
「だから系統。普通は生まれたときにやるんだけど・・・」
「何、じゃあ何か系統調べる方法があんの?」


ロリィがはい、と答える。
基本、同じ系統者同士の子供は親と同じだが、10年に一度くらい親が同じ系統でも全く違う系統g生まれることもあるらしい。また、違う系統の者同士の子供は何だか見当はつかない。だいたい血液型と同じような遺伝の仕方だが、突然変異も十分ありうる。その時のために生まれてきた子供は必ず系統を調べる。


「あるにはあるんですが・・・」
「成長してからやるとかなりやばいぞ・・・」
「や、やばいって・・・?」
「本当のところは分かりませんが、激痛をともない、常人であれば2、3日寝こむ、と」
「えー・・・」


心底嫌だ。でもならなきゃ何も始まらない。


「まぁやるとしてもオレジンから帰ってからだな。それもロリィにやってもらわねーと、オレや兄貴は多分そのころ死んでるぞ」


この2日ぐらいでも相当な要素が失われているらしい。帰ったときにはヴィスウィルだけでなく、シヴィルもやばくなるらしい。反対に、ロリィは風の要素を補給できるので元気になっているだろう。


「そっか・・・」
「何あからさまに落ちこんでんだよ?お前オレ達を殺す気かよ」
「いや、そーじゃなくって・・・」


少し覚悟を決めなければならないと思っただけだ。このまま足手まといになるのはごめんだ。
この世界に来たのは多分夢で、いつか醒めるんだと思っていた。でもちゃんと現実で、一向に醒める気配はない。ならば何かしないと麗の性格から言って何もせずに助けられているだけ、というのは我慢ならない。


「よし」
「・・・だから何なんだよ?」
「なーんでもない。お子様には関係ないこと!」
「・・・・・喧嘩売ってんのかてめぇ」
「高くつくわよ」















さあ、羽を伸ばして






























誰よりも遠くに




後書き
字数的には多いんですが、スクロールバー的には少ない(何それ)
ちなみに、氷や風はそれぞれフィス、エイスと読んでもらえたら恐縮です。
系統のときだけカタカナ表示ですが、漢字で書いてあるときも読み方は変わりません。
さらに細かいとこには、ヴィスウィルの一人称は漢字で「俺」ですが、シヴィルは「オレ」とカタカナっていう・・・
どうでもいいんですけど。
20080323