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「ついたぞ」


あまり会話のないまま馬を歩かせ、数十分で森を抜けた。
この短い時間が麗には何時間にも思えた。
内心、ほっとしていると久しぶりにヴィスウィルが口を開いたと思うと、そこには美しい街が広がっていた。賑やか、というよりは穏やかな雰囲気で、そこにいるだけで心が癒されそうだ。店もあるのだが、主人が居眠りをしたりと実にゆっくりとした時間が流れている。
開店の準備をしている中年の男性が馬を連れるロリィに気づき、手を振る。


「おーいロリィちゃん!帰ったのかい?」
「セドおじさま!はい!お久しぶりです!」


ロリィは聞き慣れた声に振り向き、声の主を確かめるとぱっと笑顔になる。
気づけば街の至る所からロリィの名前が呼ばれている。なんだかアイドルでも呼んでいるみたいだ。


「へぇ、人気あるのね、ロリィ。まあ、かわいいから仕方ないけど」
「そそそそんなんじゃないですよっ!この街は小さいからみんながみんなを知っているんです」


実際、ロリィの言っていることは事実でもあったが、アスティルス家に仕える者として有名なのでロリィは顔が広かった。


「あら、今日はヴィスウィル王子も一緒なのかい?」
「お母さん!ただいま帰りました!」


通った八百屋のようなところで話しかけた人はいかにも優しそうな、人当たりのよい女性だった。
ロリィの母親で、ちょうど買い物に街へでていたらしい。
麗はぺこりと頭を下げる。


「おや、見かけない顔だね。お友達かい?」
「えっと・・・」


ロリィはどう言おうかちら、と麗をみる。麗はそういうことにしといてくれ、と大きく首を縦に振る。


「そう、お友達のレイさ・・・レイさん!」
「・・・レイです。宜しくお願いします」
「綺麗な顔をしているね。リル族かな。まぁ楽しんでいっておくれ」
「あ、はい。ありがとうございます!」


後で聞いた話だが、ヴィスウィルもシヴィルもロリィのお母さんとは昔から顔見知りで何度も家にも行っているらしい。用事で旅をしたときに必ず訪れるという。宿代わりに泊まるらしい。今回も例外ではなく、最初からそのつもりだった。


「とりあえずうちに行きましょう。荷物を置いて、お茶でも飲んでからオレジンに行きませんか?」


それはロリィなりの優しさ。少しでもヴィスウィルに休んでもらいたかった。


「そうだね。ロリィの入れてくれるお茶おいしいから楽しみ!」







































「う・・・重・・・」


まさか家にまで馬を入れる訳にはいかなかったので、家の横に馬をつなぎ、荷物を中へ運ばれなければならなかった。ラグシールで結構なものを買ったので麗の力でも持ち上げるのが精一杯だった。


「貸せ」
「っ!ヴィス・・・」


ヴィスウィルは麗から荷物を取り上げると右肩に背負い、さっさと中へ入ってしまった。


「くそ・・・私の立場ないじゃない・・・」


何も言わない、つらそうにしない、態度に表さないから余計心が痛む。本当は昨日の夜、麗と話していたときも見張りをするから寝れないなんてほんの言い訳で、実はつらかったのかもしれない、と麗には思えてならなかった。


「おじゃましまーす・・・」


遠慮がちに入った家はカントリー風でいかにもロリィ、といった雰囲気だった。だいたい3、4人暮らしといったところか。


「いらっしゃ、レイちゃん。何もないところだけどゆっくりしておいき。ヴィスウィルとシヴィルもね」
「あ、はい!ありがとうございます!・・・って・・・ちょっとヴィスもシヴィルも無愛想に突っ立ってないで挨拶くらいしたらどーなのよ」


ロリィの母親は寛大に笑い、いいよいいよ、という。いつもこんな感じらしい。
ヴィスウィルはふぅ、と小さくため息をつくと近くの椅子に座る。長い足を組み、下を向いて目を閉じてしまった。


「・・・・・・」


その様子を見て、誰も何も言わない。ロリィの母親でさえ何かに感づいたのか、黙っている。
麗だけがヴィスウィルに近づき、すっと手を握った。


「レイ様?」
「・・・?・・・何だ」


ヴィスウィルも気づかずにはいられず、怪訝そうな顔をする。


「・・・・冷たい」
「は?だから何だ。元から・・・」
「そうじゃなくって。何よこの冷え切った手」
「だから元からって言って・・・」
「うそ・・・・」


少し間があった。麗は何か言おうとしたが、それは言葉にはしなかった。
不満そうな顔をすると手を離した。


「ばか」
「お前な、さっきから一体何を・・・」


麗はヴィスウィルが言い終わらないまま外へ出て行った。


「ちょ・・・はあ?」


ヴィスウィルは何が何だかわからず、戸惑っている。追いかけることはしなかった。きっと追いかけても戻れといわれるだろう。
ロリィもシヴィルも理由を知っていたからこそ何も言えず、何もできなかった。
ヴィスウィルはつらいのをみんなに気づかれまいと平静を装っているし、それを見ていられない麗は言いたくても言えないのを知っている。言ったら逆にヴィスウィルはもっと我慢するだろう。もっと気づかれないよう、無理をするだろう。


「レイちゃんは優しいんだね」


ロリィの母親がそう言いながらキッチンへ向かう。



後書き
わあ短い(棒読み)
とりあえず区切りがいいのでここで。
次回は昔のヴィスが。
・・・どうでもいいですね(泣)
20080319