13


















「――――ス、ヴィス。―――きて、起きてヴィス!」
「・・・・ん・・・」
「もう夕方!寝ちゃったんだよ私達あれから!」


気がつくともう日は暮れそうだった。
あの後2人はそのまま寝入ってしまったようだ。それにしても麗はよく寝る。


「夕方・・・?」
「そう!ほら立って!帰ろ?」


麗はヴィスウィルの横でかがんで覗き込む。ヴィスウィルは少しぼーっとすると、しぶしぶと立ち上がろうとする。それに合わせて麗も立つ。


「結局あんまり練習できなかったねー。まあでも乗れるようになったし、いっか――――――ってちょっ・・・ヴィス?!」


ヴィスウィルの身体が不意にぐらつき、傾く。そのまま麗の方へ引き寄せられるように倒れこんできた。麗はとっさにヴィスウィルの肩を支える。


「ヴィス?どうしたの、大丈夫?」
「・・・・―――――あぁ、大丈夫だ。悪い」


ヴィスウィルは右手で額をおさえ、再び自分の力で立つ。その顔色はあまりよくなく、ただ単に低血圧だからということでもなさそうだ。


「本当に?顔色よくないって。何かあったの?」
「何もない。行くぞ」


次の瞬間にはいつものヴィスウィルに戻り、ルイにまたがった。ならって麗もロウに乗る。
結局ヴィスウィルが倒れた原因は不明だったが、その後もつらそうでもなかったのであまり気にしないでいた。

































コンコン







「入るぞ、ウララ」
「どーぞー」


麗はノックが聞こえるとベランダの柵から降り、部屋の中へ戻る。と同時にヴィスウィルが入ってくる。


「何?どうかした?」
「明日出発するぞ、準備しておけ」
「へ?も、もう?!私まだ馬乗れたばかりなんですけど!」
「乗れたからいいだろう」
「そういう問題でなく!」


麗にとってはいきなりすぎた。もっと時間をかけて、旅の計画を立てたり、必要なものを揃えていくのかと思っていたからだ。どうやら旅は計画なんて立てるようなものでなく、必要なものは行く先々で買っていくそうだ。考えてみればそうだ。ずっと誰もいない土地へ行くわけではない。途中で買って行った方が荷物にもならないし、賞味期限も気にしなくていい。
支度しろとはいったが、支度というほどの支度でもない。当然、荷物は最小限にしなければならないので、必然的に準備するの物もあまりない。あえていえば武器になりそうなものだろうか。それから、心の準備。


「もっと経ってから出発するものと思ってた。そのー心の準備がまだできてな・・・」
「そんなもんいらねーだろうが」
「いるわよ!」


ヴィスウィルはため息をつき、とにかく明日出発する、と言い残して出ていく。麗は呼び止める。聞こえたのか聞こえていないのかは分からないが、足を止めることはなかった。


「ほんっと・・・・なんて奴な・・・」








ガタンッ!!!







「!!な、何?何事?!」


頭を抱えながらもベッドに入ろうとすると、突然扉の向こうから大きな音が聞こえてきた。ノックにしてはでかすぎる。入る時はノックしろと言ったが、そこまで強くしなくとも聞こえる。
麗は音の原因を確かめるべく、扉に向かう。頭の隅で泥棒かもしれないとドキドキしながらも思い扉をゆっくりとあけた。




だが、視線の先には何もなかった。


「?」


少し目線をおとした。


「――――っ!!ヴィス?!ちょ、ちょっと!大丈夫?!しっかりして!」


麗が開けた扉の反対側の扉に倒れるようにヴィスが座り込んでいた。顔色はなく、冷や汗をかいている。
麗はすぐに外に出てヴィスウィルのそばに駆け寄る。


「―――っ何でもない」
「うそ!何でもないわけないじゃない!昼だって倒れたくせに!やっぱどうかし――――っ!」


突然ヴィスウィルの手が麗の口をふさぐ。それでも麗はヴィスウィルの手をどかそうとする。


「ふぐ!ふぐぐぐぐぐぐっっ!!(ちょっと!何すんのよ!)」
「ちょっと黙ってろ。説明するから・・・」
「っ・・・・・―――・・・」


麗がおとなしくなるのを確認すると少しは調子が良くなったのか、扉に手をつきながら立ち上がる。それに反応して麗もヴィスウィルを支えようとヴィスウィルの腕を支える。とりあえず麗の部屋で休ませようと中に入った。




















「ヴィスウィル様、これを」
「ああ」


ヴィスウィルはロリィから手渡された冷えたタオルを自分の額、というか顔の上半分にかぶせる。ヴィスウィルはベッドに膝から上だけ身体を投げ出し、ロリィはベッドの横に座り、その横に麗が立っている。本当は誰かこの城の医者でも呼ぼうと思ったのだが、ヴィスウィルに止められたのでではせめてロリィに来てもらおうと呼んだ。ヴィスウィルお付きの侍女だ。医療の心得はあるにきまっている。


「・・・・ヴィスウィル様、やはり・・・」
「・・・・あぁ、氷(Fis【フィス】)の要素が急激に不足している。俺だけじゃなくて国民もぶっ倒れてるだろうな」
「え、何、どゆこと?」


つまり、ラグシールは土地も国民も氷、水、火、木、風の要素で出来ている。要素がなくなっているということはラグシールに住む1人1人の一部がなくなっている、分かりやすくいえば細胞が死んでいくのだ。氷の要素が殆どのラグシールはそれがなくなってしまえば殆ど消滅してしまう。土地だけではない。身体の殆ども氷で出来ている。アスティルス家を始めとするラグシール国民もだ。そしていずれ氷に属する者だけでなく、そのほかの要素に属する者もいなくなっていくだろう。


「じゃあ、カティさんとかも・・・」
「――――・・・つらいだろうな。まあ人には個人差があるから一概にはいえねーが」
「私の系統は風なのでまだ大丈夫なんですが、アスティルス家は全員氷なので・・・」


麗の知らない所でみんな苦しんでいたのだ。ヴィスウィル達だけでない。この国の氷の系統の者全てが。そう、殆どの者が氷でなくともヴィスウィルのようになるらしい。ただ、氷のものはほかの者より極端に回数が多いのだ。


立ち止まっていては駄目だ。この美しい国を守るために今すぐにでも。





「だから・・・」




ヴィスウィルが不意に口を開く。


「早くオレジンに行かねーと・・・」


国民が苦しむ。
口に出さなくともきっとヴィスウィルはそう思っていると麗には分かった。きっと、この人は冷たいほどに国想いで、苦しんでいる人をほおっておけない。冷たいほどに優しいのだろう。


「ヴィス、私頑張るよ」
「は?何を」
「何をって・・・そのーそりゃーえーと・・・とにかく頑張るの!」
「変な奴め」
「あんた程じゃないわよ」




手を伸ばせば、きっと届く。








































「なんで4人・・・」


てっきり旅はヴィスウィルと2人だけで気が重くなりそうだと思っていたが、いざ出発の時となると何故か旅の仲間が増えていた。1人はロリィ。まぁロリィは分かる。かえって付いて来てくれた方が麗にとっては嬉しかった。同行の理由はもちろん、ヴィスウィルの侍女だということもあるが、大部分はもしものときに医療の心得がある者がいないと困る、とヴィスウィルがつれてきた。
そしてもう1人。


「何でお前がいるんだよ」
「こっちの台詞なんですけどね」


シヴィルが何故かいた。


「シヴィルはいずれ要素を集めに行くことになる。その時の為に連れていけと父上からの命令だ」
「足引っ張んじゃねーぞ」
「・・・・っ!本当ヴィスウィルに似てるわね・・・」


怒る気にもなれない。最初っから興味のないヴィスウィルはさっさと進み出した。そのあとを慌ててロリィがついていく。


「ちょっと!まってよヴィ・・・」


一瞬、ブンと音がして麗の耳元を何かが飛び去った。そしてそれはロウの耳元で飛びまわる。蜂だ。それに気がついたロウはあばれだした。


「な、何?!落ちついてロウ!ねぇっ!!ちょ・・・ちょっとーーーーーー!!!!!」


そのままロウは全速力で走りだしてしまったのだ。


「お、おいウララ!」
「レイ様!」
「どこいくんだ?あいつ」
「―――ったく・・・いくぞ」


ヴィスウィルがはっと手綱を強く打ち、それに続きロリィとシヴィルも走り出した。


「いーーーやーーーーっ!!!止まってーーーーーーー!!!とーーーーまーーーーれーーーー!!!!!!」


ロウは言う事をきかない。


そう、全速力で駆けている。きっと、止まらない。
止まってしまえば届くものも届かなくなってしまうから。






全速力で駆け出して、そして走り続け、いつか飛べる。


まだほんの助走だけど、走り続けていればきっといつか飛べるから。




それで、手を伸ばせば




















ほら、


















もう飛べるはず



後書き
ちょっと短めですかね?
どこで区切ろうか迷ったんですけど、とりあえず旅の始まりってことでここで。
20080316