11


















「―――っはーつかれた・・・早く寝ようっと」


あの後数時間パーティーが続き、カティはいろんな男性からダンスに誘われて常に踊っていたし、ロリィは仕事が忙しそうだったし、ヴィスウィルはずっと壁にもたれかかったままだった。麗はどうしようもなくとりあえずヴィスウィルの隣に立っていたが、ヴィスウィルに話しかけても無視、又は生返事ばかりで会話が成り立たなかった。
カティのようにずっと踊るというのも疲れるだろうが、ずっと立っているだけ、というのも疲れるのは当たり前だ。一度はその場に座ったが、ヴィスウィルにやめろといわれたので仕方なくずっと立っていた。しかも右足に負担をかけないように左足に体重をかけていたので左足が麻痺しそうだ。
お風呂に入ってゆっくりしたが、痛みはとれそうにもない。
麗はベランダに出て柵にこしかける。足の下は遠く地面があり、落ちたら大惨事だろう。
この城からはラグシール国全体が見渡せる。麗は夜の冷たい風を肌にうけながら美しいラグシールの風景を見ていた。
街の灯り、どこがでバカ騒ぎをする声、月の光に照らされ、風を知らせる草木、その向こうには今は懐かしいような麗のきた森がある。いや、懐かしいなんてとんでもない。こちらに来たのは今日のことだ。
地球では夕方で、こっちに来たときは昼過ぎくらいだったから少し1日よりも長い気がするが、まだ24時間も経っていない。恐ろしく今日が長かった。今日のことを振りかえると改めてここは地球ではないと確認する。日本どころか、地球でもないのだ。
見上げる星空に地球があるのだ。


「―――・・・・ここ、どこなんだろう・・・」
「ラグシール国だ」
「・・・へ?」


独り言に返事が返ってきたと思えば振り返ったそこにヴィスウィルがいた。


「ヴィス・・・入るときくらいノックしてよ」
「したのに返事がなかったじゃねーか」
「あ、ごめん、気づかなかっ・・・じゃなくて返事がなかったら勝手に入ってくんな」


ヴィスウィルもベランダに出て麗の横に外を背にして柵によりかかる。麗はそれを見ると再びラグシール国を見渡した。今横にいる人はこの国の王子で、将来国王になるであろう人。


「・・・ねぇヴィス、私なんでここにいるのかな?」
「俺が知るか」
「私、朝まで普通の高校生活して、それからこれからも普通の高校生活するつもりだったのに。どうしてだろう・・・」
「・・・・・・」


今更だったが、自分の置かれている状況が酷く怖くも思えた。自分はいつ戻れるのだろう。戻る方法はあるのだろうか。
―――――――戻れるのだろうか。
今頃家族や咲哉、友達は何をしているのだろう。今ここにいるのは本当の自分なのだろうか。


「・・・危険をおかして旅をしたいと思うか」


ヴィスウィルは唐突に訊いてきた。


「へ?な、何、急に」
「したいかしたくないか訊いてるんだ」
「旅?そんな危険をおかしてまでしたいとは思わないけど、何でよ?」
「じゃあ、戻る方法を探すという目的ならいくか?」
「え・・・・・・」


一瞬止まってしまった。
ここ、カシオにそんなものが存在するのだろうか。前にも麗のようにここに迷い込んだ人がいるのだろうか。


「あ、あるの?戻る方法!」
「いや、知らん」
「何なのよ」
「だが探してみる価値はあるということだ。カシオ中さがせばあるかもしれねーだろう」
「・・・かもしれないけど・・・」


あるなんて保証もないし、第一、この見知らぬ国を1人で歩き回るのは危険すぎる。人食いウサギなんかに会った時にはたまったもんじゃない。
1歩踏み出さなければ何も始まらないと分かっている。ここにいても何も変わらない。


「1週間後、俺は旅に出る。それについていくなら同行してやってもいい」
「・・・へ?」


まさかヴィスウィルの口からそんな言葉が出ようとは思いもしなかった。1人でなら多分行かないだろうが、ヴィスウィルとなら危険も減る。守ってくれないにしても、見殺しにはしないだろう。
だが旅なんて急にどうしたのだろう。わざわざ麗の為に一緒に来てくれる訳ではないだろう。


「な、何で?なんか用事?」
「この世界の国は5つの要素でそれぞれ成り立っているって言っただろう?」
「う、うん、多分・・・」


ヴィスウィルの話によるとこうだ。
この世界の国は5つの要素で出来ている。五大要素といわれるものだ。
とくにこのラグシール国では氷(Fis【フィス】)、水(Gis【ギス】)、火(Dis【ディス】)、木(Cis【ツィス】)、風(Eis【エイス】)だ。
その国の要素が10年に一度、急激になくなる年があるらしい。人も国も五大要素でできているので、要素がなくなってしまうとその国は破滅に追いやられる。土地は荒れ、人はいなくなり、全てが何もなかったようのなる。
その要素がなくなる年が今年なのだ。今ももう、その兆候が見え始め、田舎の奥深くでは土地が崩れてきている。
これを止めるためには、世界を回り、要素を集めなければならない。
この世界には各国とは別に、要素の源であるオレジンという所が8つある。オレジンにはそれぞれ水、氷、火、木、風、光、土、明のオレジンがあり、この世界に散らばっている。例えは水のオレジンは水(Gis【ギス】)の要素を世界各国に供給している。
国の崩壊を防ぐため、各国の統治者は10年に一度、このオレジンへ自国の五大要素を集めに行かなければならない。
オレジンに行けば、"源玉"というものを手に入れられる。これは各要素がつまった玉のようなものだ。だがこの源玉は女性にしか扱えない。力の強い男が扱うと悪用するからだ。女が悪用しないといったら嘘になるが、どちらも悪用するとしたら女の方が被害は少ないだろう。
10年前はシヴァナとその奥さん、つまりヴィスウィル達のお母さんが行ったらしい。


「・・・ちょ、ちょっと待って、何、それは結構私に強制的についてこいっていってんの?もしかしてさっきお父さんと話してたのってそのこと?」
「じゃなかったら何だ」

考えてみればこのヴィスウィルがわざわざ麗のためだけに面倒な旅などするわけがない。
少し期待したが、見事に打ち砕かれた。カティも多分予想していたのだ。だからこそあんな曖昧な態度をとったに違いない。


「私じゃないとダメなの?」
「別にお前じゃなくてもいいが、お前も元の世界に帰る方法を見つけたいんだろ?それにお前だったら自分の身くらい自分で守れる技能はありそうだからな」


そりゃあ都大会優勝すればそれくらいは容易いことだ。


「・・・あのさ、あんたさっきからお前お前って・・・私は麗!もしくはレイ!ちゃんと名前があるんだからちゃんと呼んでよ!」
「俺がどう呼ぼうが俺の勝手だ」
「・・・くそ・・・で?仮に行くとしたらどうやっていくの?歩き?」


まさかこの世界にまでバスや電車やタクシーとかまではないだろう。というかそんなもの使ったら旅っぽくない。


「?何言ってんだ、馬に決まってんだろ」
「・・・う・・・馬・・・・?!??!!!ばか!私がそんなの乗れるわけないじゃない!」


馬に乗るのは初めてではないが、乗ったといっても小さいころ動物園の乗馬体験で柵の中をぐるっと一周しただけだ。しかも飼育係付き。それだけで乗りこなすというにはあんまりだ。


「その年齢で馬に乗れないでどうする」
「知ったこっちゃないわよ!」


その年齢でって、麗よりずっと年上でも地球なら乗れる方がおかしいのに。乗れるとしたらそれを専門としている人達くらいだ。


「・・・はぁ・・・・・分かった。行く気があるんなら明日から1週間乗馬の訓練だ。行くのか?」
「え・・・?」


帰りたい。まだこっちにきて1日なのにもうずいぶん長いことみんなに会ってない気がする。






「う・・・・・・うん・・・・・・行く!連れてって!私、このラグシール国も好きだし、崩壊なんてしてほしくない!」






この美しい国を、守るために。













これが、全ての第一歩となるように。





狂った人生は自分からやりなおす






羽が折れてもまだなお飛び続ける


そこで倒れてちゃだめ


ほら、もう一度起きて


前を向いて


顔を上げて


あなたの望んでいる空がすぐそこにある


手を伸ばして


きっともう一度






飛べる


























「じゃあ明日の朝からやるぞ」


そう言って扉を開けるヴィスウィル。


「う、うん、おやすみ」
「・・・・・・・・・・・・おやすみ、ウララ」
「・・・へ?」


そのまますぐに出ていく。麗に何も言わせないように。




後書き
あー説明ばっかですいません。
とっても説明な回になってしまった。
この小説、設定をややこしくしすぎてこんな回があと何回かあるかもしれません(遠い目)
もっとおもしろい小説が書きたい。
精進します。
20080304