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カティが言うよりも食事会は豪勢だった。雰囲気はパーティそのもので、この城の中にいる者だけと言ってもこの城に一体何人が仕えているの思っているのだろうか。男女それぞれ50人くらいずつはいそうだ。その中にはシヴァナも混ざっている。周りは敬意をはらってないわけではないが、いつものように固くはない。一緒に楽しんでいるようだ。


「ね?言ったでしょ?そんなに固くないって」


あまりの豪華さに立ち往生していた麗の後にカティがやってきた。


「カティさん・・・」


さっきよりは10倍いや100倍美しくなっている。
綺麗にカールした髪を後ろで緩くまとめ、金の装飾で出来たもので飾られている。普段着ているものよりも何倍も高そうなドレスに身を包み、悠々としている。ばかみたいな豪勢な装飾なのに、カティの雰囲気と相殺してこれほどになく似合っている。この分だと100倍とは言わず何倍にでも美しくなりそうだ。


「お綺麗です・・・」
「あら、ありがと!」


麗は自分が情けなくなっているようだ。確かにカティと並べば麗のような美人でも平凡に見える。
と、急に周りが少しざわついた。メイドの女性達は頬を赤らめている。何事かとみんなの視線の先を見た。白い青年がドアの外から姿を現す。


「ヴィス・・・」

「あら、結局来たのね、あの子。来ないようなこと言ってたのに」
「え?」
「どーせまたお父様にバカにされるだけだから誰が行くかって何度説得しても嫌がってたのよ」


なのに来たということは腹でも減ったのだろうか。
ヴィスは中に入ったものの、みんなの中に混ざろうとはせず、そのまま壁に背中を預けてしまった。実につまらなそうだ。麗とカティはお互い顔を見合わせ、ヴィスウィルに近づく。
ヴィスウィルも麗たちに気づき、こちらを向くが、すぐに視線を落としてしまった。


「来ないんじゃなかったの?あなた」
「来たら悪いですか」


眼を閉じたまま淡々と言う。なんていう生意気な奴だろう。


「そうは言ってないけど、さっきまであなたずっと嫌がってたじゃない」
「・・・・・・クソオヤジにおどされたんだよ・・・」


少し目を開け、シヴァナを睨みながら落とした声で言う。シヴァナはそれに気づいたのか、こちらを見てにっこり微笑む。麗は軽く頭を下げたが、ヴィスウィルはその横で無視して再び眼を閉じる。この場に国民がいたらおおごとだ。
にしてもヴィスウィルの正装は何と美しいのだろう。白一色だというのに、まるで派手な装飾でもされているかのようだ。それはヴィスウィルのその容姿、スタイル、雰囲気があってこそだ。ちなみに中のシャツは黒で、少し見える辺りがまたにくい、という発言をしたらただの変態だろうか。だからこそいつも見慣れているはずのメイド達でもこんなに頬を赤らめるのだ。


「あ、そうだヴィス。弟さんいるんだってね。聞いてなかったんだけど」
「言ってない」
「・・・・・・」


人がいなかったら一発殴ってやるところだった。さすがにこの場で殴ると逆に麗が殺される。


「ここに来てる?」
「あぁ、いるだろ。あそこに」


ヴィスウィルは目を開け、視線でシヴァナの向こう側にいる少年を指した。


「へ?・・・・・って、うわーーー・・・またなんかまがたまみたいな子・・・」
「まが・・・・?」


ヴィスウィルもカティも見知らぬ言葉に首をひねる。
だがヴィスウィルの視線の先にいた少年は本当に"まがたま"という表現が一番あっているような雰囲気だった。確実にヴィスウィルの弟であるような無愛想でにこりともしていない。写真の小さいころのヴィスウィルに瓜二つだ。
ヴィスウィルと同じ白い肌に碧く輝く碧眼、その凛とした雰囲気。ただ少し違っていたのは髪がヴィスウィルよりも少し灰色がかっていた。といっても、それでも十分色素が薄いのだが。


「あは、そっくりだね、ヴィスに」
「どこが」
「そんな無愛想なところ」
「・・・・・・」


目線で火花を散らしあっていると、カティが小さくあ、と言う。何かに気づいたようだ。
カティと同じ方向を見るとヴィスウィルの弟、シヴィル=フィス=アスティルスがこちらに向かって歩いてきた。シヴィルの無感動な目をヴィスウィルは同じ無感動な目で見返している。周りが凍りつきそうだ。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


シヴィルがヴィスウィルの前に立ったとき、沈黙が数秒続く。それに耐えかねて麗が口を開いた。


「えーと・・・あの――・・・」
「誰だよこのおばさん」
「おば・・・っ!!」


外国人呼ばわりされたことも、幽霊扱いされたことも、病人扱いされたこともなんて数知れない程ある。だがこの歳でおばさん扱いされたことは初めてだった。こんなにも心を痛めつける言葉だったとは。今度からむやみやたらに使うのはやめておこう。


「兄貴の知り合い?」


シヴィルは実に無邪気(を装っているとしか見えないよう)な目で麗を指差している。


「知り合いというほどではないな」
「あんたら2人して何なの」


ヴィスウィルが2人いるようだ。こんな弟、麗だったらとてもじゃないが手に負えない。


「私くれな・・・じゃなくてレイ!よろしくね、シヴィルくん」
「・・・気安く呼ぶな」
「・・・っ!」


くそったれがと思わずにはいられなかったが、そこは我慢しなければならないと必死で笑顔を保つ。


「・・・ごめ・・んね?でも他に呼びようがないからそう呼ばせてね?」


麗は自分でも分かるくらいに声のトーンが落ちている。カティもそれに気づき、少し苦笑いだ。ヴィスウィルは気付きながらも興味なさそうに下を向いている。
シヴィルはじっと麗を見つめると、フン、と鼻で笑った後何も言わずに元いた場所へ戻っていった。
鼻で笑われたのが相当きたのか、麗のいたるところに青筋が浮かんでいる。あと少しでも刺激すればキレそうな麗にカティは一歩引いている。ヴィスウィルも怖がっているわけではないが、身の安全を確保するため、一歩麗から離れる。
先ほどから流れているBGMが変わり、バラード系からアップテンポな曲に変わった。見計らったようにヴィスウィルにシヴァナが近づく。
ヴィスウィルはそれを見て嫌がりながらも姿勢を正す。といっても、ここには城の者しかいないのでそこまで堅苦しくはないが。


「やあ、レイだったかな?楽しんでいるか?」
「あっ・・・は、はい!えと、その、このようなすばらしいパーティーにお招きいただき、本当に嬉しいです。ありがとうございます」
「ははは・・・そんな堅くならなくていいんだよ。これは気楽なパーティーだからもっと楽にして」


シヴァナは優しく微笑む。こうして見ると実に優しい国王であり、父親でありそうだ。
シヴァナは麗の肩の力が少し抜けたのを確認すると、ヴィスウィルに向き直る。


「それで、どうするんだ?」
「何がですか?」
「愚問だな。分かっておるのだろう?」
「・・・・・・」


カティはなんともいえない表情で微笑んでいる。悲しいような、つらいような。ヴィスウィルは相変わらず仏頂面だ。
どうやら、シヴァナが何のことを言っているのか知った上での質問だったらしく、この場で分かっていないのは麗だけのようだ。


「私はもう歳を食いすぎているし、シヴィルはまだ14だ。行くならお前しかおらんのだが、どうしてもというのなら他のものを向かわせるが?」
「・・・・・・行きますよ、俺が」


ヴィスウィルは複雑な表情でシヴァナから目を離す。麗は未だ何のことか理解できず、横にいたカティに小さく訊く。


「あの、何のことですか?」
「・・・ちょっと、ね」


カティは肩をすくめ、無理矢理笑う。麗にはその意味がよく分からない。国家間の問題だろうか。多分深く訊くことはいけないことのような気がしたのでそれ以上は訊かなかったが、これが後に響くとは思いもしなかった。





後書き
弟さん登場。
ていうか今入試の休憩中なんだよね。
なんかこんなことしてていいのかしら(いいわけねぇ)
次回はなんかとんでもなくややこしいこと書きます。

20080225