06




















城下町に行くとそこは人の声、活気で溢れていた。両側に出店が建ち並び、さらにその奥にはレンガ造りの家が数え切れないほど建っている。どれも北洋風で、ヨーロッパの街並みを思わせる。行き交う人々も日本人とはかけ離れた顔立ちでそれこそ外国にいるのかと勘違いしてしまいそうだ。実際は国外どころか地球外だし。


「わあ!楽しそうねっ!ここはいつもこんな感じなの?」
「ええ、この辺は商店街ですからね。大体の人はここで買い物します」
「へぇー。私もいつかここ満喫したいなー!・・・・・・・ところでさ」


ふいに麗は笑顔を消した。


「さっきから私、すれ違う人殆どに振り返られているのは気のせいでしょうか」


ただの自意識過剰か?だがさっきは小さな男の子に指差されてママーなんて告げ口されていた。当然ママは見るんじゃありませんとしかっていた。
麗が変なことをしているならまだしも、歩いているだけで指差されるって・・・外見に問題あるんだろうか。


「私何か変・・・うわっ!」


自然に見を小さくしていく麗にヴィスウィルは長いローブのようなものを頭からかける。かける、といいうよりは投げつけたようだったが。


「お前の容姿は人目を引く。それをかぶっておけ」


よく見るとフードもついている。大きいので麗はすっぽり隠れるだろう。


「どの種族にも属さない顔、さらに俺が近くにいるんだ。見られるのは当然だろう」


そうだ。ヴィスウィルはこの先にあるお城の者だ。リル族が一番多い国なのだからこの街並みにリル族が一人もいないことはまずないだろう。少なくとも半分以上はりル族のはずだ。
その中を王族が歩けば注目されるに決まっている。必然的にその横を歩く者も見られるのだ。


「あ、ありがと・・・」
「洗って返せよ」
「恩着せがましい奴ね・・・」


無表情で言うので冗談かどうかも分からない。
麗は素直にローブを受け取り、頭からかぶる。大きめのフードを頭からかぶり顔が見えないようにした。少々息苦しいが、わがままは言ってられない。


「麗様、足は大丈夫ですか?」
「うん、全然大丈夫!大したことなかったし、中学校時代はよく捻ってたしね」
「すぐお城に着くので頑張って下さい」
「うん、ありがと」
「・・・・・・・・・」
「なに?ヴィス」
「・・・・・・いや」


前を歩いていたヴィスウィルが麗とロリィを振り返ったので何かあるのかを思ったが、訊いてみると愛想もなく前に向き直りまた歩き出した。2人はきょとん、としていたが暫くしてロリィだけがくす、と笑いだした。


「ロリィ?何、どうしたの?」
「いえ・・・はははっ・・・何でもありません」


そう言いながらもくすくすと笑っている。麗はそれを不思議そうに見ているしかできなかった。










「きゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」










「!!!何今の!」


突然麗達の後ろから奇声にも近い叫び声がした。麗たちだけでなく、道を歩いていた者全員が声がした方を一斉に振り向く。
そこには臙脂色のドレスを着た女性が座りこんで正面を真っ直ぐ見ていた。その目線の先にはバッグを持った男が全力疾走している。もしやこれは。


「ひったくりよーー!!!」
「ひ、ひったくり?!異世界でもひったくりって存在するのね・・・夢がない」


最初からそんなもの持ってなどいなかったが。
そんなことを言っている間にも男はどんどん女性から遠ざかり、逆に麗たちには近づいている。それどころかこちらに向かってきている。
慌ててヴィスウィルを見上げるとその男よりも向こうにいる女の人を見ている。茶色い、ウェーブのかかった髪、エメラルドグリーンの瞳、白い肌に細い足腰。まるでフランス人形だ。だがどこからか大人の雰囲気を見せる。少なくとも二十歳は越えているだろう。


「お願い!!つかまえてーー!!!!!」
「へ?!私?!?!ちょちょちょちょっ・・・うそちょっと!止まりなさい!」


気がついたら麗は男の腕をがっしり掴んでいる。男もそれくらいで止められるとは思ってなかったのか、振りほどこうとしてもちょっとやそっとで動かない力にびっくりしている。


「な、なんだこの女!離せ!」
「だってつかまえろって言われたから。つかあんたが悪いんでしょ。そのバッグ返しなさい!」


麗は掴む手に力をこめる。男はその力に少し顔を歪めてから必死で逃げようとする。後ろからバッグの持ち主がすごい形相で追っかけてきたからだ。


「くそ!はなせ!!」
「いっ・・・・!」


離させようと腕を激しく振ったため、麗のバランスが崩れ、右足に体重をかけてしまう。
それに気づいたヴィスウィルがすっと倒れかけていた麗の背中を支える。だがそれでもバランスを取り切らなかったのか、ヴィスウィルの足元に座りこんでしまった。それと同時にヴィスウィルも麗を支えながら座る。衝撃を減らすためだろうか。


「麗様!大丈夫ですか?」

「う、うん・・・でも犯人・・・」


倒れた瞬間に手を放してしまい、男はしめたとばかりに逃げ出した。


「大丈夫ですよ。ほら」
「へ?」


ロリィは男の逃げていった方向を指差す。逃げたはずなのに男は何故かそこに止まっていて、その横には目に見える程まがまがしいオーラを出している人物が男の方をめきめきと掴んでいる。男はたまらず声をあげている。
その手の持ち主はあろうことかあの被害者だった。麗が止めている間に追いついたらしい。なんて足の速さだ。そんなに速いなら最初から自分で追いかけていればよかったのに。
しばらくその様子を見守っていると、男はボコボコにされてバッグを奪い返されていた。それを見てあっけに取られていると、被害者の女性はこちらにやってくる。


「あなたたちーーー!!」
「あなたたちって・・・私達?こっち見て手振ってるけど私達?!」
「そうとしか思えないな・・・」
「あんた何そんなに落ちこんでんのよ?」


あまりにもヴィスウィルが残念そうに言うのでさすがに麗も気づかずにはいられない。ロリィも心なしか苦笑いを浮かべている。


「っはー・・・疲れた。あ、あなたね、さっきあの男を捕まえててくれた子!お礼が言いたくて。どうもありがとう」
「い、いえ。そんな大したことしてないです」


駆けつけてきた女性はかわいいというよりは優雅で、凛としていた。麗の両手を握りとても柔らかい笑顔で言うので思わず麗は頬を染めてしまう。


「いいえ!あなたのおかげでバッグを取り戻せたわ!大事な物が入ってたの。ちゃんとお礼がしたいわ、是非うちにいらして」
「え、いや本当、別にそこまでされる程のことしたわけじゃないですから!」
「まあ、謙遜するのね。でもそれじゃあ私の気が治まらないわ!ね?」
「は、はぁ・・・でも連れもいるので・・・」


麗が女性の家に行き、戻ってくるまでヴィスウィルが待ってくれる訳がない。絶対に。だからといって一緒についてくるとも思わない。絶対に。それに、もうこれ以上無駄な距離を歩きたくはなかった。捻挫のこともあるが、もう疲れてへとへとだ。


「大丈夫よ!すぐそこだから。ほら、ここから見えるでしょ?あのお城」


そう言って女性は麗たちの向かっていたお城を指差す。


「・・・お城って・・・え?・・・・・・え?!!?」
「・・・・こんな所で何してるんですか姉上」
「・・・は?」


ヴィスウィルはめんどくさそうにため息をつく。ロリィも未だ苦笑いだ。


「あら、ヴィスウィルじゃない。どうしたの、こんな所で」


ずっと麗の後ろにいたというのに気づかなかったらしい。ヴィスウィルもヴィスウィルで暫くは黙ってこの女性と麗との会話を聞いていたのだが、ロリィはヴィスウィルが話さなければ自分が口を開くことじゃないと思ったらしい。


「俺は修行の帰りです。・・・・・・つーか」


ヴィスウィルは声を少し落とす。


「どういうつもりだよ?!こんな街中であんなにボコボコにして!!自分で責任とれよ!!」
「いいじゃない!悪いのはあっちよ?!それよりいいのかしら?あなたこそ。こんな街中で私にそんな口聞いて」
「・・・っ・・・」


ヴィスウィルは目に見える程いらついている。逆に女性は得意げに不敵な笑みを浮かべている。


「ちょちょちょちょちょっと待って!!何?!何がどうなってんの?!この人誰?!ヴィスの姉・・・上・・・?」
「ええ。ヴィスウィル様の姉上様、カティ=フィス=アスティルス様です」


よく見れば顔のパーツや髪質など似てないこともないが、性格はまるで正反対だ。だがこうして喧嘩していると兄弟に見えないこともない。王族の喧嘩が珍しいのか、周りにはちらほら人が集まってきている。必然的に麗も注目される。野次馬の中からはいい声はしない。


「ちょっとヴィス、やめてって!あんたそんなに注目されたいわけ?ほら、早く行こ、お姉さんも一緒に」


カティに精一杯の笑顔を向ける。カティは一瞬きょとん、とするとすぐにあのやわらかな笑顔になり、ヴィスウィルの背中を押す麗についていく。ロリィもその後からついてくる。










後書き
久々の更新。
つか時間ねぇ。
早く進めたいのに。
20070515