05






















「はい、とりあえずこれで応急手当は完了です。あとでちゃんと設備の整ったところで手当てしますね」
「あ、ありがとう・・・えっ・・・えっと・・・」
「あ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私はアスティルス家に使えるロリィ。ロリィ=エイス=メラヴィナです。リル族の系統は風、エイス(Eis)です」


麗の目の前のその女の子はふんわりというのが一番ふさわしい微笑みで笑いかけてくる。キラキラでも飛んできそうだ。
ヴィスウィルに抱えられやってきた1つの小屋の中には1人の女の子がお茶の用意をしていた。少しフリルのついたエプロンをつけ、なんとも人形のような少女だった。最初はかなり驚いていたが、ヴィスウィルが"こいつの手当てをしろ"と言うと、はいと答えててきぱきと救急箱などを用意した。
それから麗はその見知らぬ女の子に手当てしてもらい、今に至る。
ヴィスウィルは麗を椅子に座らせると、再び外に出ていってしまった。


「ロリィ、私は紅漣麗。その、信じられないかもしれないけど・・・・っていうか別に信じなくてもいいんだけど」


割と自分でも信じてないから。


「私、異世界から来たの。地球って星の中の日本って所から」


麗は下に落としていた目線をちらっとロリィに向ける。案の定、ロリィは口をあけて目を見開いている。その仕草がまたかわいらしい。


「ち、地球ってあの伝説の、ですか?」
「あー・・・そんなこと言ってたわねそういえば。私からすればむしろこっちの方が伝説なんだけど・・・あぁ!信じなくていいよ!ただだから何とか族ってのも系統っていうのもよく分かんないって言いたいだけだから!」
「・・・・・・そんな・・・」


思った通り、信じられないという顔をされた。予想はしていたし、別にそれくらいで傷つくような気の小さい奴でもないから大丈夫なのだが。








「すごいですね!私も行ってみたいです異世界!」
「・・・へ?信じるの・・・?」
「え、だって本当のことなんですよね?」
「まぁ、そうだけど・・・伝説の中の世界なんて私がロリィの立場でも信じないから・・・」
「現に麗様はその異世界からいらっしゃったんです。そんな意味の分からない嘘をつく人もいないでしょう?」


可愛い顔して結構酷なことをいう。だが正直麗は嬉しかった。ここに来て初めて会ったヴィスウィルには"伝説を信じるバカ"と解釈されたし、3人の山賊には頭がおかしい奴だと思われた。普段からからかわれて"幽霊"だとか"シャツと肌の境目がわからない"と罵詈雑言を鼓膜にダイレクトにコンタクトされてそういうことには慣れているが、やはり理解してくれる人がいたら嬉しいものだ。


「あれ、ところでヴィスは?」
「ヴィス?ヴィスウィル様ですか?だったら外で修行してらっしゃいます」
「へぇー・・・修行ってその、魔術みたいなの?」
「えぇ、ヴィスウィル様は日々こうして魔力を高める修行をしてらっしゃいます」


これは後から聞いた話だが、魔術の優劣はその系統と使う人自身の魔力に深く関係するらしい。
ラグシール国の五大要素のうち、氷は水に強く、水は火に強い。火は木に強く、木は風に、風は氷に強いという、それぞれの系統に優劣がつく系統がある。ただしそれは両者とも同じ魔力だった場合だ。
例えば系統がFis、つまり氷の者とGis、水の者が闘うとする。両者の魔力が同じであれば優劣関係により、氷の系統の者が圧倒的に有利となる。だが水の者の方が魔力が強かった場合は水の者が勝つことが多い。もちろん、氷の者が強いとさらに氷の者の勝率は高くなるが。


「ってことはロリィ達はここに住んでるの?」
「いいえ!ヴィスウィル様はもっと綺麗なところに住んでらっしゃいます」


この小屋からも城下町が見える。さっき気がついたのだが、丘から見た街は"本当の城下町"だった。あの丘からは見えなかったが、ここからはしっかりお城が見える。光沢のある白でシンプルな造り。だが異世界を象徴するものとしては充分だった。
きっとヴィスウィルもこんなお城に住んでいるのだろう。偉い人だと聞いたから住んでいるところとしたらお城しか思い浮かばない。


「ここからお城が見えるでしょう?あそこがヴィスウィル様達、アスティルス家のお城です」
「え、何、あのお城ヴィスのだったの?てっきり王様のお城かと思ってた!」
「・・・え・・・だからそうですけど・・・?」


ロリィは何言ってるんだこの人はという表情をする。


「へ・・・?・・・ってことはヴィスは王族ってことになるじゃない」
「・・・だからそうです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っはーーーーーーーーー?!何、ヴィスってそんなすごい人だったの?!」
「ご、ご存知なかったんですか?」
「そりゃあもう全然」
「お話しましょうか?少し長くなりますけど・・・」
「是非!!もう何がなんだか分かんなくなっちゃって・・・」


ロリィは苦笑いを浮かべると立って紙とペンを持ってくる。そして自分達が座っている前の机に置くと何やらすらすらと書き始めた。
丸の中に丸、その中に大きさの違う3つの丸、またその中にそれぞれ5つずつ丸を描く。全て描き終えるとキャップ締め、机にコン、と叩きつける。


「これがカシオ、星ですね」


そう言って蓋を閉めたペンで一番外側の大きな円を指す。


「その中に私達のいるラグシール国があります。ここまでは知っていますか?」
「う、うん。なんとなくだけど」
「ラグシール国には3つの種族に分けられます」


まず3つの円の内、一番大きな円を指してリル族、中くらいのを指してマヤル族、一番小さいのを指してハロイ族、と言う。
リル族はこの世で一番美しいとされる種族だ。武力も魔力も長け、この種族に挑む者は恐ろしくていない。ラグシール国で一番多いのもリル族だ。
マヤル族はリル族に次いで2番目に人口が多く、魔法よりかは武力の方に長ける。もちろん、魔法が使えないわけではない。
一番人口が少ないのはハロイ族。武力よりも魔力に長ける。


「そっか。リル族って言ってたのはそのことだったのね」
「はい、種族関係なくラグシール五大要素の魔法を使えるものはたくさんいます。ですが、今は水、フィス系の者が一番多いです」
「そう、そのフィス系を統べるのがヴィス・・・じゃなかった、ヴィスのお父さんっていうのは聞いたの!」
「えぇ、その通りです。でもヴィスウィル様のお父上、シヴァナ=フィス=アスティルス様はそれだけの方ではありません」


リル族、マヤル族、ハロイ族、全ての種族のフィス系を統べ、そしてリル族を統べるのがヴィスウィルの父だとロリィは続ける。
リル族は代々アスティルス家が統治し、当代がヴィスウィルの父なのだ。ちなみにマヤル族はメラン家が、ハロイ族はロズ家が統治する。


「ヴィスウィル様にはご兄弟が2人いらっしゃいます」
「男?」
「いえ、一番上のカティ=フィス=アスティルス様はヴィスウィル様の姉上様、二番目にヴィスウィル様ご本人がきて一番下にシヴァル=フィス=アスティルス様が弟君です」


必然的にシヴァナの後を継ぐのはヴィスウィルだということになる。だからいつの日かその時の為に魔力を高め、より強くなっておかなければならない、とロリィは言う。だが本人はその意志が強くなく、1人で修行をさせるとどうしてもさぼってしまうのでこうしてヴィスウィルに使えているロリィが見張り役を仰せつかっているのだ。
ここに来たのも同じ所で修行というのは飽きるだろうとロリィが連れ出してきたらしい。


「それで、効果は?」
「皆無です」


あからさまに肩を落として言う。


「30分もったことがありません。今もそろそろ飽きて中に入ってくる頃・・・」
「何を騒いでいる?」
「ほらね」
「・・・・・・期待を裏切らない男ね、あんた・・・」
「?」


ヴィスウィルは不思議そうな顔をすると肩にしょっていた剣を壁に立てかけた。全長1.5m〜2.0mくらいだろうか。束には銀の装飾が施されている。銀だというのに金のようにキラキラ輝いて麗の目を眩しいくらい照らす。
剣を置いたヴィスウィルは1人離れた椅子に座った。長い足を組み、背もたれに背中を預ける。


「ロリィ」


ヴィスウィルが静かに呼ぶ。


「は、はい!」
「もう少ししたら城に戻るぞ。支度をしておけ」
「あ、は、はい・・・では、その麗様はどうなさるのですか?」
「俺の知ったことか。そいつのしたいようにするだろう。ほっとけ」
「うっわ、なんて奴」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」


麗はすました顔で言った。
それはさっきは助けてもらって助かったが、異世界にいつのまにか来て、右も左も分からぬかよわい(自称)女の子にこんな森の奥で1人でいろと?考えてみたらさっき助けてくれたのは自分が関わってしまったため、後々面倒なことにならないために助けてくれただけなのかもしれない。ああ、全てつじつまがあって悲しい。なんて非道な奴だ。


「行くあてが見つかるまでお城に泊まってもらっては駄目ですか?麗様の身の回りの世話なら私が致しますので」
「ロリィ」


ロリィの優しさにほろりと涙を落としそうになる。
ヴィスウィルは暫く黙り込む。そして大きくため息をつくと椅子から立ちあがった。


「・・・・・・・勝手にしろ。但しそのおかしな格好を直せよ」
「え・・・・・・と・・・OKってこと・・・?」


あえてロリィに訊く。ロリィは満面に微笑んで首を縦に振る。


「ええ、服は私のをお貸しします。あまり良い物ではありませんけど・・・」
「全然いいって!ありがとう!」
「・・・・・・」


ヴィスウィルは何も言わずに外に出る。多分麗が着替えるというので気を使ったのだろう。ロリィはいつのまにか服を用意してくれていて、ヴィスウィルが外に出ていったのを確認すると麗にそっと耳打ちする。


「あれでも優しいんですよヴィスウィル様」
「あれが?」
「きついこと言うようですけれど、結局はこうして助けてくれるんです」
「ふーん・・・」


といわれても麗にはヴィスウィルが冷酷非道な奴にしか見えない。お城につれていってくれるのは感謝しているが、ロリィがああ言わなければ麗は今ごろ森の中をさまよっているのだ。まあ確かに絶対OKしてくれないと思っていたのに意外にもあっさり承諾してくれたのにはびっくりしたが。


「さあ、これをどうぞ」
「うん、ありがとう」


ロリィは麗に服を手渡す。
白と黒のシャツに膝より少し短いであろうスカートだ。裾にフリルがついていてかわいらしい。
麗は慣れた手つきで制服を脱ぎ、渡された服を着る。サイズもちょうど良かった。


「わあ!良くお似合いです!」
「そうかなぁ・・・まあ私は着れれば何でもいいんだけど」
「そんな!私の服で申し訳ないです。お城についたらきちんとしたドレスをご用意致しますね」
「ドレスなんて私にはもったいないって!私はロリィの服で充分満足だから!」
助けてもらった上にドレスまで要求するわけにはいかない。麗自身は本当は制服のままでもよかったのだ。だがロリィがどうしても着付けがしたいと迫るのであえなく承諾する。後から聞いた話だが、ロリィはそういうことに関してはプロ級の腕前らしい。






後書き
もしかしてそこまで長くなかったですか?
いやだってここでいったん話終わるし。
話の終わり方が下手なんだな・・・
てか設定難しすぎません?
書いてて自分で思うんですけど・・・
20070406