04


















「俺がどうした」

















「・・・・・・へ?」






















なかなか衝撃がこないと思ったら男より後ろで聞き覚えのある声がする。思わず閉じていた眼を開けると、そこにはあの白い男、ヴィスウィルが剣の切っ先を男に向けていた。


「・・・っな・・・あ・・・・あ・・・」
「ヴィス?」
「言っておくが俺はそんな奴のために金なんざ出すつもりはない」


ただでさえヴィスウィルの登場にびっくりしている男達にさらに鞭打つ。眼を白黒させている麗はあえて無視だ。


「ね!だから言ったじゃない・・・ってそれはどうでもいいけど何でヴィスがここに・・・」
「このヴィスウィル=フィス=アスティルスを利用しようとするとはその心意気に拍手を送ろう」
「無視かい」


ヴィスウィルは一瞬ニヤリと嫌味っぽい笑みを浮かべるとすぐにその眼光は鋭くなる。開き気味の瞳孔が一層恐ろしく感じた。無感情な表情を男に向ける。それが恐ろしく、3人の男はその場で固まってしまっている。


「5秒以内に俺の視界から消えろ。5、4・・・」
「う・・・うあああああ!!!」


3人は一目散に森の奥に消えていった。本当に5秒以内だ。時間に正確なのがまたアホらしい。そして0まで数えるヴィスウィルはもっとまぬけに見えた。顔がよくなかったら知り合いになどなりたくない。


「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」


0まで数え終えるとヴィスウィルは剣をしまい、そのまま黙ってしまった。麗は驚きのあまり地面に座り込んでいる。


「・・・あの・・・ヴィス・・・?」


沈黙に耐えきれず、麗が口を開く。ヴィスウィルは何も言わず、少し麗に気を向けただけだ。


「その・・・なんで?助けに、来てくれたんだよね・・・?」


お金は出さないと言ってたけど。


「・・・・・・・・・森の中にいた時からあいつらがつけていたのは知ってたからな。多分こういう展開になると踏んでいた」
「・・・どうして助けてくれたの?」
「お前の為に金を出すのはもったいない」


ケチというか、非道というか。だがそうだったら助けずに身代金を要求されても真に受けなければいい。どちらにしろ、助けてくれたのには変わりない。
ほっとこうとしたり、こうやって助けてくれたり、ヴィスウィルの性格が本当に読めない。


「あ、ありがと・・・・・・・・・・・それと・・・立たせてくれない・・・?」
「・・・は?」
「そのーーー・・・足捻っちゃって」


何しろもう空手を止めて2年くらい経つのだ。久しぶりに準備体操もせずにやったら何処か痛めるに決まっている。
先ほど回し蹴りをした際に捻ってしまったのだ。何とか立っていたものの、ヴィスウィルの登場の驚きと重なってとうとう座りこんでしまった。
ヴィスウィルは数秒黙って麗を見た後、小さくため息をついて麗に手を差し出す。麗の手より一回り大きい、細く長い指だ。手入れをしていそうなほど綺麗な爪。麗はその手に一時見とれる。


「早くしろ、帰るぞ」
「あ、うん」


気がついたようにヴィスウィルの手に自分の手を重ねる。少し冷たい、だが温かみのある手だった。
ヴィスウィルは麗が手を乗せるのを見ると、きゅっと掴みそのまま上に引っ張る。そして肩を抱え込み、麗を立たせる。
随分と慣れている。異性を扱うというのに決して厭らしくない軽々しい手つきだ。それに立たせるのにも一番負担のかからないようにしている。


「・・・っいっ・・・」


にもかかわらず、麗は思わず捻った左足をついてしまい苦痛に顔を歪ませる。


「っばか、右に体重かけろ」


ヴィスウィルは麗をすっと抱き寄せる。こうしてみると麗より大分背が高い。麗の頭の位置に彼の胸がある。
ヴィスウィルがあまりにも強く麗を引っ張ったため、麗はさらにバランスを崩してしまう。それも、ヴィスウィルの方にならまだいいが、引っ付きすぎて驚き、思わず離れてしまった勢いで後ろに倒れかかる。


「え・・・・・・」
「おい・・・ちょっ・・・・!」



































































































ドサッ!

































































































「―――――――――――――――っ・・・いったぁ・・・ごめんヴィス、大丈夫?」


倒れる直前に思わずヴィスウィルの服を掴んでしまったので彼も一緒に倒れたに違いない。自分の上に。


「あれ・・・・・・ヴィス?何処?」
「・・・・・・早く下りろボケ」
「へ?」


声のした方を見るとヴィスウィルが不機嫌そうにこちらを見ている。何故か麗はヴィスウィルの上に乗っている。






「・・・かばって・・・・・・くれたの?」
「どうでもいいから早く下りやがれ。おみーんだよ」
「失礼ね!」


麗が倒れる直前、服を引っ張られそのままとっさに麗の下に入り込んだのだ。もちろん受身は取れているのでヴィスウィルに怪我の心配など無用だ。


「頭打ってねぇか?」
「・・・・・・え・・・・・・・・・・・・」
「だから頭打たなかったかって訊いてんだ」
「あ・・・う、うん。大丈夫、ありがと・・・」


一瞬、現実の世界での出来事が頭によぎった。今頃咲哉は何をしているのだろう。腰は大丈夫だろうか。
麗の行方でも捜してくれているだろうか。だったらなんて無駄なことをさせているのだろう。


「とりあえず手当てくらいしてやるからそこまで来・・・・っておい、聞いてるか?」
「え?あ、うん。聞いてなかった、ごめん」
「・・・・・ったく、面倒だなお前・・・・・・っ!!」
「ちょっ・・・・・・何、いやーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「黙れ、落とすぞ」


ヴィスウィルは麗の膝の裏と脇に手を滑りこませるとそのままひょいと持ち上げた。


「下ろせバカーーーーーー!」
「てめ、本当に落とすぞ。こっちの方が早いだろうが。人もいねーし、少しくらい我慢しろ」
「だだだだだだって!!!今時お姫様抱っこはちょっとーーーーーーーーーー!!!!!」


ポイントが違う。





後書き
ちょっと短めです。
ここで切らないと次回長くなりそうなので。
それにしても本当、短いな。
20070403