03



















「・・・・・・おい」
「何」
「何でついてくる」
「行くとこないんだもん。咲哉もどっか行ったし。あ、どっか行ったのは私のほうか」


ここが地球でない異世界だということを理解するのに相当時間がかかった。今でも半分夢だと思っている。でも頬をつねってもその痛みは本物だし、寝た覚えも気絶した覚えもない。
どうやらここに来たのは麗1人のようで、咲哉はどこにもいない。
ヴィスウィルを散々質問攻めにした後、あきれて何処かに行くようだったのでついてきた。あそこで1人でいてもどうすることも出来ない。さっきは質問の殆どを答えてくれなかったのでもう少しこの人に訊くしかないと思ったのだ。
それにここは見知らぬ世界。どんな敵が現れても不思議ではない。剣を持っているこの男なら少なくとも敵に殺されることはないと考えた。


「ついてくるな。俺はお前の冗談に付き合ってやるほど暇じゃない」


急いでいるわけではなさそうだが、麗の歩くスピードより随分速い。足の長さが大分違うらしい。


「冗談ならもっとおもしろいこと言ってやるわよ。何が楽しくて異世界から来ました、なんて嘘言わなきゃいけないのよ」


そんな存在信じていなかった自分が。
よく本とかである話は現実の世界に不満を持っていた人が気がついたら異世界に飛ばされていて、そこでは自分の理想の世界がありました、なんてのがあるが、麗は別に現実の世界に不満はなかったし、理想の世界ってのも考えたことはなかった。ただいつものように平凡な毎日が過ごせればいいとむしろ何もない現実の方がいいくらいだ。


「俺の知ったことか。ついてくるな」
「・・・・・・んもーーー、分かったわよ。止まればいいんでしょ。くそー・・・なんて酷い奴ー」
「・・・・・・」
「何よ」


麗が止まるとヴィスウィルは一瞬止まって麗を振り返る。
冷たい眼で見た後、一言ぼそっとつぶやいてまた歩き出す。


「・・・・言っておくがこの森には山賊、毒蜂、人喰いウサギ、その他諸々危険動植物のオンパレードだぞ」
「・・・・・・・・・」
「だからついてくるな」


ヴィスウィルの言葉を聞くと麗は何も言わずに再びヴィスウィルの後ろにつく。というか、毒蜂まではまぁ納得できるものの、人喰いウサギって。ここが異世界だと実感させられる。


「だって人喰いって!ウサギは草食動物じゃなかった・・・の・・・じゃなくて、危ないじゃない!森を抜けるまででいいから守って!お願い!」


掌を合わせて上目遣いでおとしてみる。咲哉にはこの技は効く。果たしてこの男に効くのだろうか。


「・・・・・・」
「ね?」
「・・・・・・ちっ・・・勝手にしろ」
「やた!ありがと!」


麗は素直に喜んだ。これで森を抜けるまでの命の保証はされた。こいつの剣の腕次第だが。
麗はこうして笑っていれば例え異世界であろうともてそうだ。願わくば口を開かないで欲しい。


「ねぇ・・・えーとヴィスウィル・・・?だっけ。ヴィスでいいやヴィス!」
「・・・・・・何だそれ。気やすく呼ぶな」
「何よ、名前は呼ばれるためにあるのよ!それにヴィスウィルって舌噛みそうなの。それよりさ、この世界について教えて?あのーさっき言ってた系統って何?」
「本当に知らないのかお前」
「うん。だからそう言ってるでしょ」


ヴィスウィルはため息をつくとしぶしぶ話し出した。
この世界には20の国があって、ここはその1つのラグシール国。それぞれの国は水、氷、火、木、風、光、土、明の中から選んだ5つの要素で成り立っており、このラグシール国は要素の割合の多い順に氷(Fis【フィス】)、水(Gis【ギス】)、火(Dis【ディス】)、木(Cis【ツィス】)、風(Eis【エイス】)で成り立っている。これが国の五大要素と言われる。栄養素みたいだ。
国民もそれぞれこの五大要素の中のどれかに振り分けられる。国民は国の五大要素でできていると言われ、1人1人その割合が大きいものがその人の系統とされる。これは殆ど遺伝で受け継がれ、同じ家系の者は9割おなじ系統だと言われる。
このラグシール国の6割が氷(Fis)で出来ており、そのフィス系を統べるのは代々アスティルス家だという。
そこまで黙って聞いていた麗だったが、聞き覚えのある単語に口を挟む。


「・・・アスティルスって・・・」
「あぁ、俺の性だが?」
「何、あんた偉い人だったの?あーすいませーん・・・」
「偉いのは俺じゃない。俺の父上だ。当代は父上だからな」
「それでも偉い人の息子なんじゃない。あーすいませーん…」


どうりで態度も偉そうだし、口調も妙に上からものを言うようだった。偉い人改め偉い人の息子ならそれも納得がいく。今更謝ってももう遅い。こんな人に一般人の護衛を頼んでしまった。なんて豪華な。


「魔力の強い者は自分の系統の魔力が使える。といってもごく一部に限られているが。例えば・・・・・・」


ヴィスウィルは麗の方を一瞬ちらっとみた。麗はいよいよ現実離れした話にその辺の花に目を向けて手を伸ばしていた。ヴィスウィルの話を聞いていない訳ではなさそうだが、目が遠い。綺麗な花でも見て気を紛らわそうとしているのか。
だが麗の手が花に届く前にシャキン、と音がして瞬きした瞬間に花は地面に切り落とされていた。花びらが数枚とれ、茎の切り口と落とされた花はみるみるうちに凍っていく。そして全部凍りきると弾けて空気中に消えていった。
驚きと信じられない現象に麗は瞬間止まり、思わず声をあげる。


「ちょ・・・ちょっと!だから危ないじゃない、何すんのよ。あー花綺麗だったのに」
「例えば俺は今みたいに氷の術を使える」


麗は無視し、話の続きをする。
用が済むと剣を鞘に収め、再び歩き出す。


「ちなみに今の花には手を出すなよ。死にたいのなら話は別だが」
「へ?」


近くにあった別の同じ種類の花を見ると、周りを飛んでいたスズメが食われていた。・・・・・・・・・スズメを食う花・・・もしこの花に毒でもあったら今頃麗は異世界どころかあの世だ。


「ここの植物って肉食・・・?こわー」
「ところで」
「ん?」
「お前のそのおかしななりはなんだ?」


ヴィスウィルは麗にちらっと目をやり、すぐに前に目線を戻す。


「あ、これ?これは私の学校の制服。正装って言えば分かるかな?」
「・・・正装?・・・・・・ふん」
「あ、今笑ったでしょちょっと!私も好きでこんなの着てるわけじゃないわよ」


咲哉とバスケをした際も、そこまで本気でやる気ではなかったので制服のままでやったのだ。パンツが見えようが咲哉なら知れている。
制服はダサくはないが、目立ってかわいい、というわけでもない。好んで着ようとは思わないし、こんな森を歩くのならもっと軽装で歩きたい。
もう既に所々汚れていて、靴も泥で殆ど元の色が分からない。


「笑ってない。ばかにしただけだ」
「同じよ!」
































































































しだいに周りが明るくなって森を抜けた。といっても、そこには何もなく、ただ多大な平原が広がっているだけだったが。
そこは丘のようで、下を見ると数え切れないほどの建物が所狭しと並んでいた。城下町のような雰囲気がある。


「森はここで終わりだ。約束だからな。後は自分で何とかしろ」
「冷たい奴ねー・・・まいいや、下まで下りればどうにかなるでしょ」
「その格好でか」
「だ、だってしょうがないじゃない。着ないよりましでしょ」


そりゃあそうだ。裸で歩くなんてこれほど変な人がいるものか。


「下で友達作って服貸してもらうからいいの!」
「そんな格好で友達が出来たら心から拍手を送ってやるよ」
「・・・っ!いっちいちムカつくやつーー!!あーもう早く帰っていいよ!案内してくれてありがとうございました!」


本当はちゃんとお礼したかったのに、あまりにもムカつく言い方をするので明らかに嫌味っぽくなった。
ヴィスウィルは何も言わず元来た道を戻っていく。


(・・・あれ・・・・・・)


その後ろ姿をみて気がついた。もしかしてあの人は本当は自分の目的地を通り越して麗をここまで連れて来てくれたのだろうか。態度と矛盾を感じる麗はヴィスウィルが途中で曲がり、見えなくなるまでずっとその背中を見ていた。














「意味分かんないひ・・・・・・とととととと?!?!?!!?」


これからどうしようか考えようとしていると、急に何かが首を締める。人の腕のようだ。
後ろを見上げると3人の男がいて、その内1人が麗の首をしめている。


「ちょっ・・・な、何?!痛い痛い痛い!私食べてもうまくないわよ!」
「誰が共食いするかボケ。お前さっきまで一緒にいたのヴィスウィル=フィス=アスティルスだよな?」
「んー?うん、そんな感じの名前だったと思いまス・・・」


ヴィスウィルしか覚えていないが、確かそんな感じだっただろう。
麗の言葉を聞くと男達は互いに顔を見合わせ、ニヤリと笑う。そんなにお互いの顔がおもしろいのだろうか。


「だったら話ははえー。お前は人質だ」
「・・・・・・は?」
「だからお前は人質だ」
「・・・・・・は?」
「人質だっつってんだろ!」
「人質―――――?!ななな何で?!」
「何でってお前あの男が何者なのか知ってんだろ?お前を人質にして身代金もらうに決まってんだろ」


テレビドラマでしか見たことない話の展開に麗はついていっていない。だが少なくともこの男達が何か勘違いしていることは分かる。


「身代金って・・・あの、言っときますけど私あの人と知り合いでも何でもないですよ?身代金渡してまで私を助けるなんてしないと思うけど・・・」
「何?!お前あいつの女じゃねぇのか!くそ、聞いてねぇぞ!!」
「「「言ってねぇよ」」」


麗どころか仲間からも突っ込みが入る。
そこから3人の男だけの会議が始まった。見たところ、こいつらは山賊だ。会話の内容から推測すると、お頭からヴィスウィルの関係者を連れさらって来い、という命令を受けたが、予想外の出来事にこれからどうしようか話し合っているらしい。
なかなか判断がつかず、会議に参加していない麗までいらいらしてきた。逃げようにも首の腕は意外とがっしりつかんでいる。


「あのー・・・私関係ないって理解してもらえたんならそろそろ解放してくれませんかね。もう森歩き回ってくたくたなんだから」
「黙れ!今お前を使って身代金奪う方法考えてんだから!」
「・・・っ・・・だからあいつは助けになんてこないって!それに・・・」
「へ?」


























「放せっつってんでしょこの雑魚がぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」


思いっきり男の鳩尾に肘鉄が入る。男はあまりの衝撃に腕を放してしまった。それに気づいた会議中だった2人が麗に襲いかかろうとする。


「この女・・・!!!!」


襲いかかってきた腕をそのまま掴み、すっと男の脇に入り込み、足を払って自分の上を回転させ、地面に叩きつける。見事なまでの背負い投げだ。
最後の男には左から一発裏拳をくらわせ、すかさず右から回し蹴り。


「ぐほっ・・・・・・!!!」
「・・・・・・・・・・・・かよわい女の子に男3人がかりで・・・恥を知りなさい恥を!」


倒れている男達は今何つった、と目を見開く。全国までいった空手部とかよわい女の子は並べて使ってはいけない。


「てめ・・・・!!言わしておけば・・・!!」
「・・・きゃ・・・っ!」


ちょうど麗の後ろにいた男、背負い投げされた男が後ろから麗の腕を取る。さっきまで油断していたが、こうして本気で襲いかかれば麗が力負けするに決まっている。
振りほどこうとするが敵わない。元々体格のいい男達だ。いくら都大会優勝だからといってこの細い身体では対抗できないだろう。


「ちょっと!放してよ!私は何も関係ない・・・!だいたいこの世界の住人でもないのに・・・!」
「あ?何言ってんだお前。頭やられたのか?」
「うっさい!!どーせ信じないでしょ!!別にそれはどうでもいいから放せーーー!!」
「てめーがうっせぇよ。くそ、眠らせておくか」


そう言って男は麗の首筋に手刀をくらわせようと右手を構えた。
麗は来ると分かったが、両腕をしっかり固定されていてどうすることもできなかったのでとりあえず強くを目つぶった。衝撃が襲ってくるまでそのままでいたほうが気が楽だ。

















「悪く思うなよ女。全てはあのヴィスウィルに関わったのがいけなかっ・・・」
「俺がどうした」
























「・・・・・・へ?」
















後書き
強い女の子が書きたかった・・・
そしてなんだかんだ言いながら助けに来る人書きたかった・・・
なんかこういうシチュエーション大好きv
20070401