『顔色悪いけど大丈夫?』
『具合悪いの?』
『なんか青白いよ?』


「・・・あ、いや・・・?」


『保健室一緒に行こうか?』
『早退とか』


「何ともないって」


『ちょっと額出してほら!』


「・・・だからこれは元々の肌の色ーーーーーーーーーーーーー!!!!」









01









「――――――っ!!」


まだ寒さが残る4月。桜前線はまだ来る前で咲ききっていない花もある。夢にうなされ自分の叫びで起きたこの女子高生。といっても制服はまだクローゼットの中に入ったままだ。
少しだけ色素が薄いところもあるが、良く見なければ全く分からないほどの黒髪。染めたこともなければ染めたいとも思わなかった。寝癖なのかくせっ毛なのか分からない髪のはねは見事に緩くパーマをかけたように綺麗にうねっている。
ちなみに元々で、パーマはかけていない。今は寝癖もあるが。肩甲骨を10cmほど越えるセミロングだ。
寝起きで半分ほど閉じているが、開いたら大きいであろうその瞳も髪と同様黒だ。厳密に言えばこげ茶といったところだが、相当近づかないと分からない。白目よりも黒目の方が多いので余計大きく見える。
輪郭がなめらかで、割と顔立ちも整っている。
夢でも問題にされていたその肌は肌色というには白すぎ、白というには肌色がかっている、という何とも病人のような色だ。実際この肌の色のせいで何回も保健室に連れていかれそうになり、笑っていても必ず無理してない?と最初は訊かれる。もう知り合って日の長い友達はこれが自分の肌の色だと認めてくれたが、初対面の人は必ずといっていい程第一声は"大丈夫?"だ。
もう慣れたが、夏に焼こうとしても赤くなるばかりで、黒くなどならず痛くなるだけだった。言えば日本人より欧米人の肌というところだろう。


「・・・・・・黄色人種だっての・・・・・・」


半目で夢に出てきた友達に軽く反論すると布団をめくり、ベッドから足を出した。そのまま座ってボーっとすると、しぶしぶ学校に行く準備をしようと立ちあがる。
その足はすらっと長く、モデルにでもいそうだ。身長は160cm弱ほど。高すぎず、低すぎず、といったところだ。
まだ新学年が始まって間もないというのに思い足取りで制服のかかるクローゼットを開ける。低血圧なのか、1つ1つの動作が遅い。そして何か1つする度にボーとしている。これがなければもう少し寝ていられるのだろうが、こいつ、紅漣麗にはできそうにはない。
上の寝巻きを脱ぎ、細い腕、ウエストが露になる。
ハンガーからアイロンのかかったシャツをとり、背中からかける。第1ボタンを残し、他のボタンを全部閉めるとスカートをはき、寝巻きの下を脱ぐ。リボンを片手に持ち、そのまま鏡の前に座る。
襟を立ててリボンを緩く締めると寝癖のついた髪を櫛でとく。それでも直らない所はスプレーをかけて数秒押さえる。いつもはそれでも直らない所はそのままほっとく。
髪が元々綺麗にうねっているので寝癖がついたままでもあまり分からない。いくら分からないからといって女としてそれはどうだろうと思うところがあるが、麗に言ってもそれは無意味だ。人目を気にしない彼女にとって髪型はどうでもいい。
今日はスプレーで直る程度だったのであまり激しい寝癖はついていなかったのだろう。
ある程度髪型を整えると机の上にあるケースを取って開ける。


「・・・だいたい何なのよ。誰が病人よ。そこまで顔色悪くないっつの」


誰にともなくぶつぶつ文句を言いながら自分の肌の色より暗い色のファンデーションを薄く塗る。本来なら肌を明るく見せるためのファンデーションも麗にとっては逆の役目を果たしている。いや、効果が出ているのかは分からないが。
綺麗に塗り終わるとパチン、とケースを閉め、靴下を引き出しから取り出して履く。


「麗ーーー!朝ご飯できてるわよー!早くしないと学校遅れるわよー!」
「はあい・・・」


1階から母親の声が聞こえたのでしぶしぶ階段を下り、リビングに向かった。
ふと窓の外をみると桜が散っていた。太陽がその花をキラキラと照らしている。
























「よ、病人」
「優兄、朝から殴り殺されたいの?」
「その前にお前の方が死ぬんじゃねーの?」


その顔色、と付け足して悪戯っぽく笑う。
リビングに向かうと麗の兄、紅漣優がパンを食べていた。今日は大学の講義が午前かららしい。
麗に何処か似ていて、顔立ちが綺麗だ。大学でももてる方らしい。かっこいいという分類に入るだろうから、必然的だろうが、それを自分で言うから聞く方は呆れる一方だ。


「・・・・・・くそ・・・どうでもいいけど大学遅れるよ」
「うおっ!やば!!」


分が悪くなった麗は優を追い出そうとする。
優は時計を見ると口にパンを押し込み、カバンを取って席を立つ。そのまま意味の分からぬ言葉を発して家を出ていった。おそらく"いってきます"と言ったのだろう。


「ほら、麗も他人事じゃないわよ。あと20分くらいしかないけど?」
「うわ、まじ?!早く食べなきゃ」


麗は優が座っていた席の反対側に座り、用意してあったパンを手に取る。麗の母は優の食べた後を片付ける。


「お父さんと累は?」


累は麗の弟だ。今高2でバスケ部に所属している。


「お父さんは朝早くから会議ですって。累は朝練で早くに出て行ったわよ」
「朝練ねー・・・」


麗も中学のころは経験した。麗は空手部で部長を務めていた。小学4年のころから始めた空手だったが、持ち前の運動神経ですぐにうまくなり、中学3年のころは全国までいった。
だがそこまでで、全国規模の成績を修めた訳でもなく、スポーツ推薦はきたものの、そこには行かず、一般受験をして今の高校に入った。
今は部活もやっていない。勧誘はされたものの、全て断った。最初から部活に入るつもりはなかったのだ。
累は麗と違い、スポーツ推薦で高校に入った。インターハイも3位という成績を修めたらしい。優もバスケ部でエースをしていたので、こいつに似ているのかもしれない。


「じゃいってきまーす!」
「気をつけてね」


麗は残っていたパンを全て食べ終わるとカバンを持ち、玄関から出ていった。あと10分ほどで学校が始まるが、麗の足なら間に合うだろう。距離もそこまでない。
これが紅漣家の日常だ。大して何の変哲もない、平凡な家族だ。家族揃って顔がいいやつが集まってはいるが、ただそれだけで祖先が有名な歴史上の人物でも、恋にやぶれて身投げした外国の少女の血筋だというロマンチックな話もない。皆純日本人で、家で平凡に生活している。













「よっ!麗!お前も今登校か?」
「咲哉!」


学校が近くなってきて、時間にも余裕があったので走るのをやめて歩いていると後ろから声をかけてくるものがいた。こいつも走ってきたのか、黒い髪の所々がはねている。
見た目はさわやかボーイ、といったところか。名前は衿澤咲哉。麗と同じクラスの男子だ。2年のころも同じクラスで席が近かったので自然と仲良くなった。
彼もまた空手部だったので、その話題でもよく盛りあがる。まぁ、仲良くなったのは麗のその少々男まさりの性格と、咲哉の気さくな性格によるものの方が大きかったが。


「何、お前気分でも悪いの?」
「・・・・・・朝から殴られなきゃそのバカ治らないの?それともまだ寝てるわけ?だったら殴り起こしてやるけど?」


周りにキラキラがつくほど満面の笑みで言われると余計恐ろしい。鳥肌さえ立つ。こうしていると(言っていることを省いて)本当に西洋人形のようだ。だからこそ伝わってくる恐ろしさがあるというものだが。


「っあ゛ーーーーーー!!悪かったって!健康そうで何よりでス!」


確かに本気で闘ったら咲哉の方が勝っただろうが、咲哉は女に手を出せるような性格でもない。
さらにいくら男子空手部だったからといって、全国までいったやつに殴られたら痛いじゃすまない。全国といったら別の言い方をすれば都大会優勝、なのだ。
本気で殴りかかりそうな麗を慌ててとめる。すごい勢いで両手を振っている。咲哉はいつもこんな風に麗に喧嘩をふっかけては自分から折れている。


「それよりさ、麗。今日放課後暇?」
「ん?んーまぁ暇だと思うけど何?買い物でも付き合えって?」
「んにゃ、そーじゃなくって。バスケ相手してくんね?ワンオンワン!」
「何で急に?バスケ部にでも入りたくなったの?言っとくけど私は部活には入りませんよー」
「いや、俺も入んねーって」
「じゃあ何?」
「ほら、今度クラスマッチあんじゃん!女子はバレーだろ?男子はバスケだからさ。練習したいんだ」


靴を脱ぎ、自分の靴箱から紺のスリッパを出し、そこに靴を入れる。スリッパを下に落とすと、パァンといい音がして右側だけがはねて裏返った。
咲哉はそれを足で元に戻して履く。麗も全く同じ事をして咲哉と並んで歩く。


「な、しねぇ?」
「別に私はいいけど、私より咲哉の男友達の方がうまいんじゃないの?私でいいわけ?」
「だってあいつらみんなバイトとか部活とか入ってて・・・」
「あ、そゆことね。テスト前だがら第2体育館なら空いてるでしょ」
「あぁ、じゃ、よろしくな」


テスト前は勉強期間に入るので殆どの部活動は休みで、全国レベルの部活動だけが第1体育館を使っているくらいだ。咲哉の友達はその全国レベルの部活動にいるわけだが。
麗はバスケを専門的にやったことはなかったが、持ち前の運動神経と小学校中学校のころに全国レベルの兄貴と勝負していれば自然とうまくもなるだろう。1回も勝ったことなどなかったが。










「おはよー」


眠そうに入ってきた麗を見て皆が口々に挨拶を返す。咲哉は入ってきたなり友達に髪をぐしゃぐしゃにされる。


「紅漣ー!お前この前貸したCD−!」
「っあー・・・忘れた、ごめん!」
「何回目だよお前!明日もってこいよ!」
「うん、ごめん!」
「麗ー!おはよ!ね、今週休日空いてない?買い物付き合ってほしいんだけど!」
「えーと…うん、いいよ。私も買いたいものあるし!」
「やた!ありがと」


これがクラスの日常。仲がよい、何の変哲もない平凡なクラス。不満もなければ重くもない。
麗は彼女の知らないところで相当もてる。だがその性格を知らない者に、だ。少々毒舌なことを知れば彼女にしたいというよりも仲のよい友達になってしまう。彼氏がいなかったわけでもなかったが、結局は付き合っているようなことを何もしなかったので別れてしまった。
女友達にもよく黙っていれば逆ハーでもできそうなのにね、と言われる事もある。ただしやはり自覚はない。そんなことを言われても性格を変えようとも思っていない。だからいつも友達なのだ。
だが麗はこの生活に十分満足していた。家族もいる、友達もいる、贅沢なんて何もいらない。この生活で充分だったのだ。













後書き
長年(?)暖めてきた小説。
いつかはUPしようUPしようとずーっと思っていました。
つか、主人公完璧人間にしすぎか俺。まいいや。私の小説にでてくる登場人物は大抵完璧。
何でって作者の理想がたっぷり詰まっているからv(顔洗って出直せ)
20070329